・・・……ピイ、チョコ、キイ、キコと鳴く、青い鳥だの、黄色な鳥だの、可愛らしい話もあったが、聞く内にハッと思ったのは、ある親島から支島へ、カヌウで渡った時、白熱の日の光に、藍の透通る、澄んで静かな波のひと処、たちまち濃い萌黄に色が変った。微風も一・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ 大通りは一筋だが、道に迷うのも一興で、そこともなく、裏小路へ紛れ込んで、低い土塀から瓜、茄子の畠の覗かれる、荒れ寂れた邸町を一人で通って、まるっきり人に行合わず。白熱した日盛に、よくも羽が焦げないと思う、白い蝶々の、不意にスッと来て、・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・ これは憂国の至情黙視しておられなかったのであるが、また彼の性格の如何に激烈で、白熱的であるかを示すものである。それにつけても今の日本の非常の時に、これほどの烈々たる情熱ある精神の使徒を私は期待することを禁じ得ない。 当局及び諸宗は・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・浮塵子がわくと白熱燈が使われた。石油を撒き、石油ランプをともし、子供が脛まで、くさった水苔くさい田の中へ脚をずりこまして、葉裏の卵を探す代りに。 苅った稲も扱きばしで扱き、ふるいにかけ、唐臼ですり、唐箕にかけ、それから玄米とする。そんな・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・しかしこの映画を見ている時には、そんな理屈などはどうでもよいほどに白熱的な興奮と緊張を感じさせられる。たとえ興行者のほうでは芝居のつもりであったとしても、動物のほうでは芝居気などは少しもない正真正銘の命がけの果たし合いだからである。 ジ・・・ 寺田寅彦 「映画「マルガ」に現われた動物の闘争」
・・・近来電気の応用が盛んになるにつれて色々の事に炭を使う、白熱電灯の細い線も炭、アーク灯の中の光る棒も炭である、電話機の受話口の中の最も要用なものは炭でこしらえた丸薬のようなものである。 白炭 小枝に石灰を塗って焼いた・・・ 寺田寅彦 「歳時記新註」
・・・「白熱せる神宮競技」。「白熱せる万国工業会議」。こういうトピックスで逆毛立った高速度ジャズトーキーの世の中に、彼は一八五〇年代の学者の行なった古色蒼然たる実験を、あらゆる新しきものより新しいつもりで繰り返しているのであろう。そうして過去・・・ 寺田寅彦 「野球時代」
・・・夥しい星が白熱した花火のように輝いていた。 やがて森の上から月が上って来た。それがちょうど石鹸球のような虹の色をして、そして驚くような速さで上って行くのであった。 すぐ眼の下の汀に葉蘭のような形をした草が一面に生えているが、その葉の・・・ 寺田寅彦 「夢」
・・・それにちりばめた宝石のように白熱燈や紅青紫のネオン燈がともり始める。 白木屋で七階食堂の西向きの窓から大手町のほうをながめた朝の景色も珍しい。水平に一線を画した高架線路の上を省線電車が走り、時に機関車がまっ白な蒸気を吐いて通る。それと直・・・ 寺田寅彦 「LIBER STUDIORUM」
・・・電光が針金の如き白熱の一曲線を空際に閃かすと共に雷鳴は一大破壊の音響を齎して凡ての生物を震撼する。穹窿の如き蒼天は一大玻璃器である。熾烈な日光が之を熱して更に熱する時、冷却せる雨水の注射に因って、一大破裂を来たしたかと想う雷鳴は、ぱりぱりと・・・ 長塚節 「太十と其犬」
出典:青空文庫