・・・工場裏に似たそれは皇后児童病院だった。 チラリと水がはがね色に光った。掘割だ。高架鉄道陸橋は四階の窓と窓とを貫通した。 タクシーがちらほら走った。 おや、しゃれた警笛が鳴るじゃないか。なるほど乗合自動車はやっとロンド・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・この時代の歴史の上に父の姓とともに固有の名を記されているのは、極く少数の、藤原氏直系の娘たちだけで、いずれも皇后、妃、中宮などになった人達ばかりである。 藤原氏は、宮廷内のあらゆる隅々まで一族の権力を伸張させるために、抑々藤原鎌足の時代・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・この事実を知っていたものは貞淑無二な彼の前皇后ジョセフィヌただ一人であった。 彼の肉体に植物の繁茂し始めた歴史の最初は、彼の雄図を確証した伊太利征伐のロジの戦の時である。彼の眼前で彼の率いた一兵卒が、弾丸に撃ち抜かれて顛倒した。彼はその・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫