・・・ すぐに美人が、手の針は、まつげにこぼれて、目に見えぬが、糸は優しく、皓歯にスッと含まれた。「あなた……」「ああ、これ、紅い糸で縫えるものかな。」「あれ――おほほほ。」 私がのっそりと突立った裾へ、女の脊筋が絡ったように・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・ 大通へ抜ける暗がりで、甘く、且つ香しく、皓歯でこなしたのを、口移し…… 九 宗吉が夜学から、徒士町のとある裏の、空瓶屋と襤褸屋の間の、貧しい下宿屋へ帰ると、引傾いだ濡縁づきの六畳から、男が一人摺違いに出て行・・・ 泉鏡花 「売色鴨南蛮」
・・・「いや、――食切ってくれ、その皓歯で。……潔くあなたに上げます。」 やがて、唇にふくまれた時は、かえって稚児が乳を吸うような思いがしたが、あとの疼痛は鋭かった。 渠は大夜具を頭から引被った。「看病をいたしますよ。」 お澄・・・ 泉鏡花 「鷭狩」
出典:青空文庫