・・・小遣銭をなまで持たせないその児の、盗心を疑って、怒ったよりは恐れたのである。 真偽を道具屋にたしかめるために、祖母がついて、大橋を渡る半ばで、母のおくつきのある山の峰を、孫のために拝んだ、小児も小さな両手を合せた。この時の流の音の可恐さ・・・ 泉鏡花 「夫人利生記」
・・・七には物を盗心有るを去る。此七去は皆聖人の教也。女は一度嫁して其家を出されては仮令二度富貴なる夫に嫁すとも、女の道に違て大なる辱なり。 男子が養子に行くも女子が嫁入するも其事実は少しも異ならず。養子は養家を我家とし嫁は夫の家を我・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・時には残忍とか狡猾とか盗心とかいうものに対してまでも滋養を与えなくてはならないかも知れません。で、青春の時期に最も努むべきことは、日常生活に自然に存在しているのでないいろいろな刺激を自分に与えて、内に萌えいでた精神的な芽を培養しなくてはなら・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
出典:青空文庫