・・・すなわち普通にいわゆるペンの目方である。精しく云えばこの中には身辺にある可動性の器物や人間や一切のものの引力も加わっていてこれらが動けばそれだけの影響はあるはずである。ただこれらの影響は地球全体に比べて小さい事も確実である。次には雰囲気の引・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・ところがあまがえるの目方が何匁あるかと云ったら、たかが八匁か九匁でしょう。それが一日に一人で九百貫の石を運ぶなどはもうみんな考えただけでめまいを起してクゥウ、クゥウと鳴ってばたりばたり倒れてしまったことは全く無理もありません。 とのさま・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・ 山椒の皮を春の午の日の暗夜に剥いて土用を二回かけて乾かしうすでよくつく、その目方一貫匁を天気のいい日にもみじの木を焼いてこしらえた木灰七百匁とまぜる、それを袋に入れて水の中へ手でもみ出すことです。 そうすると、魚はみんな毒をのんで・・・ 宮沢賢治 「毒もみのすきな署長さん」
・・・多分は目方でお測りになるおつもりか知れませんが目方で比較なさるのは大へんご損です。食物の中で消化される分の熱量ででもご比較になったら割合正確だろうと存じます。そう云うふうにしますと一般に動物質の方が消化率も大きいのでありますからよほどお得に・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・それどころかコンムーナへ新規に入って来る者なんぞは一月に二三キロも目方が減るぐれえなもんだ。これでよく分る、『ブルスキー』へどんな連中がより集まったか。懶けもんだ! 天からマンナが降るのを待ってるみてえだ。ブルスキーの連中は自分で云っている・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 手紙の重み ヒョータン形の郵便の目方はかりではかりつつ「実際こんな手紙に 六銭はんなけゃならないなんて 癪だわ」 見て知らん振 銀座 雨もよい weekday の午後一時すぎ むこうから・・・ 宮本百合子 「心持について」
・・・「やせていらっしゃるんですねえ、 でも骨太だからやっぱり女とは違いますねえ、 目方なんか軽くっていらっしゃるんでしょう。」 自分の肉つきの好い丸っこい肩に両手を互え違えにして体を左右にゆりながら千世子は云ったりした。 女・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・馬は人間とは目方が違うからなあ。」「うむ。そうかも知れない。ちっとも気が附かなかった。」 こんな話をして常磐橋に掛かった。中野が何か思い出したという様子で、歩度を緩めてこう云った。「おう。それからも一つ君に話しておきたいことがあ・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫