・・・ これには理由があるので、この秋の初に富岡老人の突然上京せられたるのは全く梅子嬢を貴所に貰わす目算であったらしい、拙者はそう鑑定している、ところが富岡先生には「東京」が何より禁物なので、東京にゆけば是非、江藤侯井下伯その他故郷の先輩の堂・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・僕の目算では、身丈は五尺七寸、体重は十五貫、足袋は十一文、年齢は断じて三十まえだ。おう、だいじなことを言い忘れた。ひどい猫脊で、とんとせむし、――君、ちょっと眼をつぶってそんなふうの男を想像してごらん。ところが、これは嘘なんだ。まるっきり嘘・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・ 始め、恭二を養子にする時だって、もう少しいい家から取るつもりで居た目算が、ひょんな事からはずれて先の見えて居る家などからもらってしまったし、又お君でも、いくら姪だと云っても、あまり下さらない女をもらってしまって、一体自分等は、どうする・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・どういう商売の目算で、人家まばらな桜の木の梢に冬の日をうけながら、しること柔かい字で書いた旗が出されたのだったろう。 どこか心をさそうその風情にうごかされたと見えて、めずらしく通りがかりの母が私たちをつれてそこでおしるこをたべたことがあ・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・ 兎に角、私共は、AがK大学に古典を教える目算がついた許りで、新居を探さなければならないことになった。 全く、家なき者! 私共は、もう夏になり、暑い戸外を二人で、空屋から空屋と探して歩いては、失望して、居辛いわが家に帰り帰りした・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
出典:青空文庫