・・・ 私は、直射する東や南の光線は大嫌いですから――少くとも勉強する時は――書斎は、北向でありたい。広い弓形の窓をとり、勿論洋風で、周囲にがっしりした木組みの書棚。壁は暗緑色の壁紙、天井壁の上部は純白、入口は小さくし、一歩其中に踏入ると・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
・・・ ○時計で南北を知るには、直射光線にうつる短針のかげをかさね、十二時とそれとの中央を南とし、正反対を北。 ○列車の速力は、二十二秒半にこすレールのつぎめの数が時数。 ドイツに Wanderlied の多いこと Faust でさえ・・・ 宮本百合子 「一九二三年夏」
・・・ 其の時分は、今私の書斎になって居る陰の多い、庇が長い為に日光が直射する事のない、考えるには真に工合の好い五畳が空き部屋になって居たので、其処がすぐ「お叔父ちゃんのお部屋」に定められて居た。 非常に砂壁の落ちる棚の上だの部屋の周囲に・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・ 空気の流通と、日光の直射を受ける事がないから、土面にじかに敷いた「寝わら」だのきたないものから、「あぶ」や「蠅」は目覚ましい勢でひろがって、飛び出そうにも出処のない昆虫はつかれて小屋に戻って来る馬を見るとすぐその身を黒く包み去るのであ・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫