・・・城下金沢より約三里、第一の建場にて、両側の茶店軒を並べ、件のあんころ餅を鬻ぐ……伊勢に名高き、赤福餅、草津のおなじ姥ヶ餅、相似たる類のものなり。 松任にて、いずれも売競うなかに、何某というあんころ、隣国他郷にもその名聞ゆ。ひとりその店に・・・ 泉鏡花 「一景話題」
・・・予は未だ欧洲人に知人もなく、従て彼等の食卓に列した経験もないので其真相を知り居らぬが、種々な方面より知り得たる処では、吾国の茶の湯と其精神酷だ相似たるを発見するのである、それはさもあるべき事であろう、何ぜなれば同じ食事のことであるから其興味・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・突然、僕と彼との相似を感じた。どこというのではない。なにかしら同じ体臭が感ぜられた。君も僕も渡り鳥だ、そう言っているようにも思われ、それが僕を不安にしてしまった。彼が僕に影響を与えているのか、僕が彼に影響を与えているのか、どちらかがヴァンピ・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・活動役者との相似が、直接私に利益をもたらした。年若いひとりの女給が、私が黙っていても、煙草をいっぽんめぐんでくれたのである。「ひまわり」は小さくてしかも汚い。束髪を結った一尺に二尺くらいの顔の女のぐったりと頬杖をつき、くるみの実ほどの大・・・ 太宰治 「逆行」
・・・アメリカの烏賊の缶詰の味を、ひそひそ批評しているのと相似たる心理でした。まことに、どうも、度し難いものです。 私たちの計画は、とにかくこの汽車で終点の小牛田まで行き、東北本線では青森市のずっと手前で下車を命ぜられるという噂も聞いているし・・・ 太宰治 「たずねびと」
・・・物慾皆無にして、諸道具への愛着の念を断ち切り涼しく過し居れる人と、形はやや相似たれども、その心境の深浅の差は、まさに千尋なり。十四、わが身にとりて忌むもの多し。犬、蛇、毛虫、このごろのまた蠅のうるさき事よ。ほら吹き、最もきらい也。十・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・平目一まいの値段が、僕たちの一箇月分の給料とほぼ相似たるものだからな。このごろの漁師はもう、子供にお小遣いをねだられると百円札なんかを平気でくれてやっているのだからね。 そう、そうらしいですね。(部屋の中央に据子供たちにあんな大金を持た・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・その喜びの中には相似三角形に関する測量的認識の歓喜が籠っている。」「物理学の初歩としては、実験的なもの、眼に見えて面白い事の外は授けてはいけない。一回の見事な実験はそれだけでもう頭の蒸餾瓶の中で出来た公式の二十くらいよりはもっと有益な場・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・また構造物の模型実験が従来はいわゆる力学的相似にかまわず行われているのに飽き足らず、この点について合理的な模型を作る方法を考案し、その一例としてパラフィンの混合物で二階建日本家屋の模型を作りその振動を験測したりした。これから進んで実際の家を・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・その中に若干「相似」を決定するために主要な項目の組み合わせがあってこれだけが具備すれば残りの排列などはどうでもいいのだろう。この主要の組み合わせを分析するという事はかなりおもしろいしかしむつかしい問題だろうと思ったりした。渾天に散布された星・・・ 寺田寅彦 「自画像」
出典:青空文庫