・・・いちいち例をあげてその相違をあげると面白いのだが、私はいまこの原稿を旅先きで書いていて手元に一冊も文献がないので、それは今後連続的に発表するこの文学的大阪論の何回目かで書くことにして、ここでは簡単に気づいたことだけ言うことにする。 宇野・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・ 何さまこれは負傷したのに相違ないが、それにしても重傷か擦創かと、傷所へ手を遣ってみれば、右も左もべッとりとした血。触れば益々痛むのだが、その痛さが齲歯が痛むように間断なくキリキリと腹をむしられるようで、耳鳴がする、頭が重い。両脚に負傷・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・「彼女はきっと病床から脱け出して来たものに相違ない」 少女の面を絶えず漣さざなみのように起こっては消える微笑を眺めながら堯はそう思った。彼女が鼻をかむようにして拭きとっているのは何か。灰を落としたストーヴのように、そんなとき彼女の顔・・・ 梶井基次郎 「冬の日」
・・・書を採用するという都合らしく、よっては今夜早速に、それらの相談を極めておき、いよいよ今度の閣令が官報紙上に見えた日に、それを待ち受けていて即刻に書面を出すことにしたならば、必ず旗はこちらの手に上がるに相違ありますまい。 さようなわけであ・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・ただ貴嬢の恥は二郎に対する恥、二郎の恥は自己に対する恥、これぞ男と女の相違ならめ。 汽車横浜に着きてわれら立ちあがりし時、かの君も立ちあがりて厚く礼のべたもう、その時貴嬢もまたわずかに顔なるハンケチを外して口ごもりたもうや直ちにまた身を・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・とは相違した立場であるが、それにもかかわらず、深い内面性と健やかな合理的意志と、ならびに活きた人生の生命的交感とをもって、よく倫理学の本質的に重要な諸根本問題をとりあげその解決、少なくとも解決の示唆を与えているからである。この本は生の臭覚の・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・それは馬賊か、パルチザンに相違なかった。 小村は、脚が麻痺したようになって立上れなかった。「おい、逃げよう。」吉田が云った。「一寸、待ってくれ!」 小村はどうしても脚が立たなかった。「おじるこたない。大丈夫だ。」吉田は云・・・ 黒島伝治 「雪のシベリア」
・・・ 好意からの助言には相違無いが、若崎は侮辱されたように感じでもしたか、「いやですナア蟾蜍は。やっぱり鵞鳥で苦みましょうヨ。」と、悲しげにまた何だか怨みっぽく答えた。「そんなに鵞鳥に貼くこともありますまい。」「イヤ、君だっ・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・私はまた、二人の子供の性質の相違をも考えるようになった。正直で、根気よくて、目をパチクリさせるような癖のあるところまで、なんとなく太郎は義理ある祖父さんに似てきた。それに比べると次郎は、私の甥を思い出させるような人なつこいところと気象の鋭さ・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・そしてこの袖は藤さんのに相違はない。小母さんや初やや、そんな二三十年前の若い女に今ごろこんな花やかな物があるはずがない。はたして藤さんが入れたのだとは断言できぬけれど、しかしほかのものがどう間違ったってこんな物を自分の抽斗へ入れこむわけがな・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
出典:青空文庫