・・・ 毎日、幾何の人間が、深き省察のなかったがために、また自からを欺いたがために社会の空しき犠牲となりつゝあるか。そして、彼等の狂騒と私等は、この人生にとって畢竟、いかなる意義を有したであろうか。 たゞ人生の意義は、たゞちに、美と正義に・・・ 小川未明 「名もなき草」
・・・に於て取られた言語体の文章は其組織や其色彩に於いて美妙君のの一派とは大分異っていた為、一部の人々をして言語体の文章と云うものについて、内心に或省察をいだかしめ、若くは感情の上に或動揺を起さしめた点の有った事は、小さな事実には過ぎなかったにせ・・・ 幸田露伴 「言語体の文章と浮雲」
・・・これは科学にたずさわるほどの人々の慎重な省察を要することと思われる。 最後にもう一つ、頭のいい、ことに年少気鋭の科学者が科学者としては立派な科学者でも、時として陥る一つの錯覚がある。それは、科学が人間の知恵のすべてであるもののように考え・・・ 寺田寅彦 「科学者とあたま」
・・・ 以上の所説は、一見はなはだしく詭弁をろうしたもののように見えるかもしれないが、もし、しばらく従来の先入観をおいて虚心に省察をめぐらすだけの閑暇を享有する読者であらば、この中におのずから多少の真の半面を含むことを承認されるであろうと信ず・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ともかくもこの二つのものの比較はわれわれの科学なるものの本質に関する省察の一つの方面を示唆する。 雷電の怪物が分解して一半は科学のほうへ入り一半は宗教のほうへ走って行った。すべての怪異も同様である。前者は集積し凝縮し電子・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・しかし適当な科学的常識は、事に臨んで吾々に「科学的な省察の機会と余裕」を与える。そういう省察の行われるところにはいわゆる流言蜚語のごときものは著しくその熱度と伝播能力を弱められなければならない。たとえ省察の結果が誤っていて、そのために流言が・・・ 寺田寅彦 「流言蜚語」
・・・それはかつてデカルトが『省察録』において用いた如く、懐疑による自覚である、meditari である。それは徹底的な否定的分析でなければならない。彼は『省察録』の第二答弁において証明 dmontrer の仕方に二通りあるという。一つは分析 a・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・しかし彼の『省察録』Meditationes などを読んでも、すぐ気附くことは、その考え方の直感的なことである。単に概念的論理的でない。直感的に訴えるものがあるのである。パスカルの語を借りていえば、単に l'esprit de gomtri・・・ 西田幾多郎 「フランス哲学についての感想」
・・・云々と一方的にだけいっていて、そのような婦人が存在する社会の他の現実関係として、当時の男性が婦人に対して持っていた習俗なり態度なりについては、男自身のこととしてまるで省察の内にとりあげていないのは興味があるところではなかろうか。婦人の知って・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・芸術家としての鴎外が興津彌五右衛門の境地にのみとどまり得ないで、一年ののちには更に社会的に、その社会を客観する意味で歴史的に、殉死というテーマをくりかえし発展させて省察している点は、後代からも関心をもって観察せられるべきであろうと思う。・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
出典:青空文庫