・・・ まだこの後十行ばかり書いてありましたが、恥しくなったのでそれは省略しましょう。彼岸の中日に会うことにしたのは、ちょうどその対面の日が三月二十三日だったので、同じ会うなら二十三日よりも中日の二十一日の方がよいという田所さんの言葉に従った・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・を省略した言葉だというまわりくどい説明を含んだ書き方でごまかしているのである。が、これとても十分な書き方ではなく、一事が万事、大阪弁ほど文章に書きにくい言葉はないのだ。 大阪弁が一人前に、判り易く、しかも紋切型に陥らずに書ければ、もうそ・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・ 一日中に起った事柄の、どれを省略すべきか、どれを記載すべきか、その取捨の限度が、わからないのである。勢い、なんでもかでも、全部を書くことになって、一日かいて、もうへとへとになるのである。正確に書きたいと思うから、なるべくは眠りに落ちる・・・ 太宰治 「作家の像」
・・・敬具―― ところどころ私が勝手に省略したけれど、以上が、その国民学校訓導の手紙の内容である。うれしかった。こんどは私のほうから、お礼状を書いた。入営なさるも、せぬも、一日一日の義務に努力していて下さい、とも書き添えた。 本当にもう、・・・ 太宰治 「新郎」
・・・全文省略 八唱 憤怒は愛慾の至高の形貌にして、云々「ちょっと旅行していました留守に原稿やら、度々の来信に接して、失礼しました。が、原稿は相当ひどい原稿ですね。あれでは幾らひいき目に見ても使えません。書き直して貰っても・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・それから、香合をほめる事などもあって、いよいよ懐石料理と酒が出るのであるが、黄村先生は多分この辺は省略して、すぐに薄茶という事になるのではあるまいか。聖戦下、贅沢なことを望んではならぬ。先生に於いても、必ずやこの際、極端に質素な茶会を催し、・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・これに対する著者の論議はわざと大部分を省略するが、しかし彼の面目を伝える種類の記事は保存することにする。 アインシュタインはヘルムホルツなどと反対で講義のうまい型の学者である。のみならず講義講演によって人に教えるという事に興味と熱心をも・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・そしてこういう声を出さずに口だけ動かす読み方では子音を発するに必要な細かい調節はよほど省略されている。云い換えてみると、ただ母音だけを出す真似をすれば歌の口調の特徴がかなりよく分るのである。 それでもし各種母音に相当する口腔の形状大小を・・・ 寺田寅彦 「歌の口調」
・・・映画を論ずる場合に映画の技術に関する科学的の基礎と、その主要なテクニークについて一通りの解説をするのが順序であるが、この一編の限られた紙数の中にこれを述べている余地がないから、ここではいっさいこれらを省略する。しかし大多数の読者がこの点につ・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・これも肝心な所が省略されているそうであるが、それでもおもしろくなくはない。牛乳びんがいっせいに充填されて行くところだとか、耕作機械の大分列式だとか、これらは子供にもおとなにも、赤にも白にも、無条件におもしろい何物かをもっている。映画のそもそ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
出典:青空文庫