・・・さらに発声映画に関して新たに起こって来た多様の興味ある問題もあるであろうが、これらもいっさい省略してここには触れないことにした。 もし、この一編の覚え書きのような未定稿が、映画の製作者と観賞者になんらかの有用な暗示を提供することができれ・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・最初の問題のつかみ方、計算の途中に入り込む仮定や省略のしかたによって少しずついろいろ違った結論に達する。しかもそれらの各種の論文は互いに相鼎立して、どちらも、それ自身としては正当でありうるのである。ただそれらの間の優劣を区別する場合の目標は・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・この場合でも一般の日本語に km なる結合の起こる確率を考慮に入れて補正すればよいが、これはしばらく省略するほかはない。しかしこれは現在の場合結果の桁数を変えるほどの影響がありそうもないことは少しあたってみてもわかると思う。 Turum・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・然るに映画の場合では撮影者が長い時間とフィルムを費やして撮影した夥しい材料の中から、無駄なものを省略し、最も重要なものだけを選び出し、それを巧みに編輯してあるから、観客は極めて短い時間の間にこの動物のあらゆる特徴を最も純粋にまた最も強調され・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
・・・各測候所の平均領域の幅員に比して微細なる変化は度外視し、定時観測期間の長さに比して急激なる変化をも省略して近似的等温線あるいは等圧線を引くに過ぎず。例えば土地山川の高低図を作る際に、道路の小凹凸、山腹の小さき崖崩れを省略するに同じ。これを省・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・モダーンな日記帳にはその年の干支など省略してあるのもあるくらいである。実際丙午の女に関する迷信などは全くいわれのないことと思われるし、辰年には火事や暴風が多いというようなこともなんら科学的の根拠のないことであると思われるが、しかしこれらは干・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・けれども一線一画の瞬間作用で、優に始末をつけられべき特長を、とっさに弁ずる手際がないために、やむをえず省略の捷径を棄てて、几帳面な塗抹主義を根気に実行したとすれば、拙の一字はどうしても免れがたい。 子規は人間として、また文学者として、最・・・ 夏目漱石 「子規の画」
・・・したがつてそれは最も暗示に富んだ文学で、言葉と言葉、行と行との間に、多くの思ひ入れ深き省略を隠して居る。即ち言へば、アフォリズムはそれ自ら「詩」の形式の一種なのである。 アフォリズムは詩である。故にこれを理解し得るものも、また詩人の直覚・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・云いたいこと、表現すべき言葉がぼかされたり、暗示にとどまったり、省略されたりしている。「鈍・根・録」の冒頭の文章では警察と留置されていた自分の関係がぼやかされていて、きょうの読者の理解には不便である。「わが父」のはじめも、父の葬儀のため市ヶ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第五巻)」
・・・で阿蘭をやったときルイズ・レイナーは随分本気でとりくんでいたし、彼女の持っている聰明さ、内面の奥ゆきというようなものが省略された動作のかげに声をのんだ声として多くのものを語る力となっていた。同じこのひとが、「グレイト・ワルツ」のシュトラウス・・・ 宮本百合子 「映画女優の知性」
出典:青空文庫