・・・道の上の秘密もとうの昔に看破しているのに違いない。保吉はだんだん不平の代りにこの二すじの線に対する驚異の情を感じ出した。「じゃ何さ、このすじは?」「何でしょう? ほら、ずっと向うまで同じように二すじ並んでいるでしょう?」 実際つ・・・ 芥川竜之介 「少年」
・・・しかし保吉は今日もなおこの勇ましい守衛の秘密を看破したことと信じている。あの一点のマッチの火は保吉のためにばかり擦られたのではない。実に大浦の武士道を冥々の裡に照覧し給う神々のために擦られたのである。・・・ 芥川竜之介 「保吉の手帳から」
・・・稿の成ると共に直ちにこれを東京に郵送して先生の校閲を願ったが、先生は一読して直ちに僕が当時の心状を看破せられた。返事は折返し届いて、お前の筆端には自殺を楽むような精神が仄見える。家計の困難を悲むようなら、なぜ富貴の家には生れ来ぬぞ……その時・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・練習が少し積んで来ると、それはいろ/\な利益があるがね、先ず僕達の職掌から云うと、非常に看破力が出て来る。……此奴は口では斯んなことを云ってるが腹の中は斯うだな、ということが、この精神統一の状態で観ると、直ぐ看破出来るんだからね、そりゃ恐ろ・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・しかるに主人の口からは言いませんが、主人の妹、すなわちきょうだいの母親というも、普通から見るとよほど抜けている人で、二人の子供の白痴の原因は、父の大酒にもよるでしょうが、母の遺伝にも因ることは私はすぐ看破しました。 白痴教育というがある・・・ 国木田独歩 「春の鳥」
・・・私は、よほど以前からその事を看破していたのであるが、「先生、梅。」私は、花を指差す。「ああ、梅。」ろくに見もせず、相槌を打つ。「やっぱり梅は、紅梅よりもこんな白梅のほうがいいようですね。」「いいものだ。」すたすた行き過ぎよう・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・真偽看破ノ良策ハ、一作、失エシモノノ深サヲ計レ。「二人殺シタ親モアル。」トカ。 知ルヤ、君、断食ノ苦シキトキニハ、カノ偽善者ノ如ク悲シキ面容ヲスナ。コレ、神ノ子ノ言。超人説ケル小心、恐々ノ人ノ子、笑イナガラ厳粛ノコトヲ語レ、ト秀抜真珠ノ・・・ 太宰治 「創生記」
・・・だいいち、あなたにこんなに看破されて、こんな、こんな、」まぬけた悪鬼なんてあるもんじゃない、と言おうとしたのだが言えなかった。どこかで、まだ私がこの先輩をだましているのかも知れないと思ったからである。私が言い澱んでいると、先輩は、どれどれと・・・ 太宰治 「誰」
・・・早くからその狂暴の猛獣性を看破し、こころよからず思っているのである。たかだか日に一度や二度の残飯の投与にあずからんがために、友を売り、妻を離別し、おのれの身ひとつ、家の軒下に横たえ、忠義顔して、かつての友に吠え、兄弟、父母をも、けろりと忘却・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・祖父は、たちまち次男の嘘を看破し、次女に命じて、次男の部屋を捜査させた。次女は、運わるくそのメダルを発見したので、こんどは、次女に贈呈された。祖父は、この次女を偏愛している様子がある。次女は、一家中で最もたかぶり、少しの功も無いのに、それで・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
出典:青空文庫