・・・わたくしはその恋愛が非常に傷けられたと存じました時、そのために、長煩いで腐って行くように死なずに、意識して、真っ直ぐに立ったままで死のうと思いました。わたくしは相手の女学生の手で殺して貰おうと思いました。そうしてわたくしの恋愛を潔く、公然と・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・ここ真っ直ぐ行けばいいんですか。宿はすぐ分りますか」「へえ、へえ、すぐわかりますでやんす。真っ直ぐお出でになって、橋を渡って下されやんしたら、灯が見えますでござりやんす」 客引きは振り向いて言った。自転車につけた提灯のあかりがはげし・・・ 織田作之助 「秋深き」
・・・を越え、橋の南詰を道頓堀へ折れ、浪花座の前を通り、中座の前を過ぎ、角座の横の果物屋の前まで来ると、浜子と違って千日前の方へは折れずに、反対側の太左衛門橋の方へ折れて、そして橋の上でちょっと涼んで、北へ真っ直ぐ笠屋町の路地まで帰るのです。私は・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・色町に近くどこか艶めいていながら流石に裏通りらしくうらぶれているその通りを北へ真っ直ぐ、軒がくずれ掛ったような古い薬局が角にある三ツ寺筋を越え、昼夜銀行の洋館が角にある八幡筋を越え、玉の井湯の赤い暖簾が左手に見える周防町筋を越えて半町行くと・・・ 織田作之助 「世相」
・・・アパートの表を真っ直ぐに通じているかなり広い道があり、居住者が時どきその道を通って帰って来るのを佐伯は見たことがある。駅とは正反対の方角ゆえ、その道から駅へ出られるとも思えず、なぜその道を帰って来るのだろうと不審だったが、そしてまた例のもの・・・ 織田作之助 「道」
・・・「兄さん、もっと真っ直ぐ」「私の顔が見えるの?」「見えるとも、そら笑ってらあ。やあい」 がたがたと箱を揺ぶる。やがてもったいらしく身構えをして、「はい、写しますよ」とこちらを見詰める。「あら、目を閉ってるものがあるも・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・ ご亭主は土間のお客を一わたりざっと見廻し、それから真っ直ぐに夫のいるテーブルに歩み寄って、その綺麗な奥さんと何か二言、三言話を交して、それから三人そろって店から出て行きました。 もういいのだ。万事が解決してしまったのだと、なぜだか・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・わたくしはその恋愛が非常に傷けられたと存じました時、その為に、長煩いで腐って行くように死なずに、意識して、真っ直ぐに立った儘で死のうと思いました。わたくしは相手の女学生の手で殺して貰おうと思いました。そうしてわたくしの恋愛を潔く、公然と相手・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・一里ばかり離れた郡山の町から一直線の新道がつくられて、そのポクポク道をやって来たものはおのずから村を南北に貫通している大通りへぶつかり、その道を真っ直ぐ突切ると爪先上りの道は同じ幅で松の植込みのある、いくらか昔話の龍宮に似た三層楼の村役場の・・・ 宮本百合子 「村の三代」
出典:青空文庫