・・・ 雪の顔は真っ赤になった。そして逃げるように、黙って部屋を出て行った。綾小路の方は振り返ってもみなかったのである。 秀麿の眉間には、注意して見なくては見えない程の皺が寄ったが、それが又注意して見ても見えない程早く消えて、顔の表情は極・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・三郎は二人を炭火の真っ赤におこった炉の前まで引きずって出る。二人は小屋で引き立てられたときから、ただ「ご免なさいご免なさい」と言っていたが、三郎は黙って引きずって行くので、しまいには二人も黙ってしまった。炉の向い側には茵三枚を畳ねて敷いて、・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・ちょうどそっと手をさすってくれたようでしたわ。真っ赤な、ごつごつした手でしたのに、脣が障ったようでしたわ。そうでなけりゃ心の臓が障ったようでしたわ。」「わかってよ」と、母は小声で云って、そのまま縫物をしていた。 その後二人はこの時の・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
出典:青空文庫