・・・けれども、現在は兎に角、将来の長い時間の為に、女優劇は、今のような、一段、気を許した雰囲気にあることは慶ぶべきことではないと思う。真個に気を入れて見て、其でうんと云わせる舞台が、女優独特の実力で創造されて欲しいのである。 自分が終りまで・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・〔以下原稿十二行分欠〕二月 十五日 いつかおすしを食べたいと云ったのが真個に成って夜和田さん、岩本さん、吉田、その他が S. C. に呼ばれた。美くしいグレト フルートが、サクランボーで飾られたのを見て自分はどんなによろこんだか。 ・・・ 宮本百合子 「「黄銅時代」創作メモ」
・・・ 真個に今日の、少し自分と云うものを考え、周囲に批判的な眼を持つ私共位の女性は、皆な同じ不満、希望、失望を経験するものでございますね。あの御著書全部を貫いている思想的傾向は、その普遍的な性質に於て、私共のものであるとさえ申せますでしょう・・・ 宮本百合子 「大橋房子様へ」
・・・なぜなら、昔から、人類がやっと文字を発明した時代から、真個に人間の生きている意味、子から子へと絶えない愛を以てまもり、懐きあこがれる、真理の追求の為に、身を捧げて人生に対した少数の人々は、決して、「わたしは人生につかれた、暮しがつらい」とは・・・ 宮本百合子 「男…は疲れている」
・・・ 両方の絶壁は子供の感情を知った。憐れに思い、何とかしてやりたく思う。泣声は次第に激しく、叩く拳は次第に熱烈に、苦しくなって来る。 真個に、崖も辛く思う。然し、彼には手がない。彼方の崖にも腕がない。せめて柔かく身でも屈めてやりたいが・・・ 宮本百合子 「傾く日」
・・・女形には、芸の上に於て、其那腕のなさはない代り、どうしても、エキスプレッションが、女形の芸としての知識の範囲を脱し難い。真個の女性が無意識に流露させる女らしさが、微妙な隅々で欠けているので、天真の軟らかみが乏しいとも云えよう。女形の女性は、・・・ 宮本百合子 「気むずかしやの見物」
・・・ けれども、その某博士が逝去されたという文字を見た瞬間、自分の胸を打ったものは、真個のショックでした。 どうしようという感じが、言葉に纏まらない以前の動顛でした。 私は、二度も三度も、新聞の記事を繰返して読みながら、台所に立った・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・「私には不思議に思われます、真個に不思議に――。考えて御覧遊ばせ。私共はお互に独身で、本当の心から愛し合って、結婚しようとして居る。そう云う人々が一日中沢山の時を一緒に過したり、一緒に歩いたりすることが其那に騒ぎな、何かいけない・・・ 宮本百合子 「結婚問題に就て考慮する迄」
・・・物が真個に書ける時私は、うれしく働ける。生きることの ありがたさ。何故いつも、斯様にはあらぬか わが、こころ。 *あわれな、わが、こころ、歓びに躍り悲しみに打しおれいつも・・・ 宮本百合子 「五月の空」
・・・そして、「あら、真個にお飼いになるの」と云う間もなく、可愛い二羽のべに雀と、金華鳥、じゅうしまつなどを、持ち運びの出来る小籠で、大切そうに運び込んだのである。 私は悦び、額をつけて中を覗いた。子供の時、弟が、カナリアと鶏、鳩など・・・ 宮本百合子 「小鳥」
出典:青空文庫