・・・ あまり怒って言葉の出ない栄蔵は、膝の上で両手を拳にして、まばらな髭のある顔中を真青にして居る。額には、じっとりと油汗がにじんで居る。 夜着の袖の中からお君の啜泣きの声が、外に荒れる風の音に交って淋しく部屋に満ちた。 昨日、栄蔵・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ よくもよくもそげえな法体もねえことを吐かしてけつかる! 何ぼうはあ」 真青な顔をして、あの黒子を震わせていた禰宜様宮田は、気を兼ねるように、猛り立つお石の袂を引っぱった。が彼女はもう止められないほど気が立っている。 邪慳に・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・ ほら知ってるでしょう、 あんなに奇麗な外套には泥の「しみ」がいっぱいついててねえ。 真青な顔の上に髪が乱れかかったあの王の前のお師様はほんとうに立派だった。 濡れた着物のまんま私共をにらみながら、 「仲なおりをしよう」・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
出典:青空文庫