・・・この頃は、毎年のことであるが、どちらかというと疲れ易く、しかも眠い事と云ったら! それはそれは眠くて春眠暁を覚えずという文句を、実に身を以て経験中です。バカらしく眠いが、これは何か必要があるのであろうと思い、ゲンコを握ってグースーです。グー・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・朝まだ眠いのに家でガッチャンガッチャン、裏の長屋でガッチャンガッチャン。はじめのうちは馴れないので閉口でした。アラー、チブスになるわよ、とスエ子[自注9]等は恐慌的な顔付をしたが、まさかそれは大丈夫でしょうから、どうぞ御心配なさらないで下さ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ただ時々眠いことってったら! どうしたって目のあいてないことがあるんですよ、並んで順ぐり居眠りしてる恰好ったら! オイ! たまらない。 ターニャは自分でふき出しながら、ほっぺたの上から金髪をかきのけた。 ――でも、みんないい青年たち・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・私は眠い、眠い。部屋数がないから、彼女は早く起きても自分だけ自由な行動はとれない、そのうちに眠っていた時は何でもなかった朝おそい室内の空気は、醒めて見ると、何と唾棄すべきものだろう。そこで、フダーヤは癇癪を起して私を起してしまわないため、よ・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・ 今日は四月上旬の穏かな気温と眠い艷のない曇天とがある。机に向っていながら、何のはずみか、私は胸が苦しくなる程、その田舎の懐しさに襲われた。斯うやっていても、耕地の土の匂い裸足で踏む雑草の感触がまざまざと皮膚に甦って来る。――子供の時分・・・ 宮本百合子 「素朴な庭」
・・・ 然し、その朝は余り眠く、体がくたくたであった。眠いという溶けるような感覚しか何もない。十一時頃茶の間にやっと出た。まだ包紙も解いてないパン、ふせたままの紅茶茶碗等、人気なく整然と卓子の上に置かれている。――奇妙なことと思い、少し不安を・・・ 宮本百合子 「春」
・・・純吉は、暗いし眠いし歩けなくなって、牧子におんぶされている。「失礼ですがあの方、よく御存じですか?」 しめりはじめた草むらが匂う道を歩きながら牧子がきいた。「よくって云えるかどうかしらないけれど――なあぜ?」「たしか、瀬川の・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫