・・・歯車は次第に数を殖やし、半ば僕の視野を塞いでしまう、が、それも長いことではない、暫らくの後には消え失せる代りに今度は頭痛を感じはじめる、――それはいつも同じことだった。眼科の医者はこの錯覚の為に度々僕に節煙を命じた。しかしこう云う歯車は僕の・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・井上眼科病院で診察してもらったら、一、二箇月入院して見なければ、直るか直らないかを判定しにくいと言ったとか。 かの女は黒い眼鏡を填めた。 僕は女優問題については何も言わなかった。 十二、三歳の女の子がそとから帰って来て、「姉・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・オオヴェルニュのクレエルモン・フェラン市にシブレエ博士と呼ぶ眼科の名医が居た。彼は独創的な研究によって人間の眼は獣類の眼と入れ替える事が容易で、且つ獣類の中でも豚の眼と兎の眼が最も人間の眼に近似している事を実験的に証明した。彼は或る盲目の女・・・ 太宰治 「女人訓戒」
・・・ 眼科のお医者は女医であった。「この女の子のほうは、てんで眼があかないので困ります。田舎のほうに転出しようかとも考えているのですが、永い汽車旅行のあいだに悪化してしまうといけませんし、とにかくこの子の眼がよくならなければ私たちはどこ・・・ 太宰治 「薄明」
・・・の日偶然通りかかったある店先で見た他人の他の事に関する植物学の著書につながると同時に、自分の昔書いたある論文につながり、次いでその論文に連関した大学研究室のいろいろの出来事につながり、また一方ではある眼科医へつながる。この眼科医とその前日現・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・それから井上達也という眼科の医者が矢張駿河台に居たが、その人も丁度東洋さんのような変人で、而も世間から必要とせられて居た。そこで私は自分もどうかあんな風にえらくなってやって行きたいものと思ったのである。ところが私は医者は嫌いだ。どうか医者で・・・ 夏目漱石 「処女作追懐談」
・・・これは、作者自身が眼科医であるらしくて、しっくりと医学的追求とヒューマニティがむすびつき、戦争の残酷さについて身に迫る作品でした。 科学の側からもっと文学に入ってこなければならないのは、自然科学よりも社会科学です。 ・・・ 宮本百合子 「質問へのお答え」
出典:青空文庫