・・・などでは着実な発展の可能を示していた。ソヴェト同盟の「人民芸術家」としてもう完成された演出家である。現在のスタニスラフスキーに動揺する要素や未知を感じてこの先彼がどうなろうかと、心配したりする者はソヴェトの観衆の中にまあないだろう。 メ・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・小市民の中にある客観的な、自己陶酔でない、歴史とともに前進してゆく進歩性、つまりブルジョア・リアリズムを着実な生成の過程で発展させてゆこうとする進歩性が、社会と芸術の前衛たりうるのではないでしょうか。前衛という言葉の意味は、歴史性のなかでま・・・ 宮本百合子 「第一回日本アンデパンダン展批評」
細かい部分部分の記述については、もう一息と思われる所もないではないが、全体として見れば着実に、誠意をもって具体的に書かれ、心持よい印象を与えられた。 これまでの文学で、下級海員の生活を描いたものは、階級的な立場からあつ・・・ 宮本百合子 「「第三新生丸」後日譚について」
・・・人々の現実にたえる作品を生み出して行こうという作家の希望が偽りでないならば工夫をこらしその斜面にピッケルをうちこんで、着実に抵抗して、進んで通過しなければならない角度なのだと思う。何によってその雪崩れでそぎとられた斜面にピッケルをうちこむべ・・・ 宮本百合子 「日本の河童」
・・・ インフレーションという本来の性質にしたがって出版の場合でも、いい本よりは下らない悪い本が濫造されていたのだから、そのような本の出版状態が整理されて、着実な選択にしたがってそれぞれの分野の著作が出版されるようになったらいいということは、・・・ 宮本百合子 「日本文化のために」
・・・ 東京を一寸も見た事のないものに東京を紹介する雑誌は、責任をもって着実な考えで東京を知らせ、良い処よりも悪い裏面を多く知らせた方がまだ不難だろうとさえ思われる。田舎の若者が、皆が皆東京へばかり出たがって仕舞っては、ほんとうに困る事だろう・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・バックは、この面を、その着実な人間らしい目で何と見ているであろうか。どう芸術化すであろうか。私はバックの現実を観る目の力と幅、深さが益々鍛錬されて、いつかそういう題材を、阿蘭のような女や男の側から描いた作品の出ることを待望する。 日本が・・・ 宮本百合子 「パァル・バックの作風その他」
・・・ジェーンは、外の手紙がどれも何かうまいことのありそうな文句や誘うような好条件を並べているのを見て、若い着実な女性にとって本当に職業らしい職業の口ではないと直感するのであった。容貌とかその他、女性のためにかくされた危険や曖昧さのあることを感じ・・・ 宮本百合子 「働く婦人の新しい年」
・・・昨年の『慈悲光礼讃』に比べれば、その観照の着実と言い対象への愛と言い、とうてい同日に論ずべきでない。 が、この実証は自分に満足を与えたとは言えない。自分はこの種の写実の行なわれないのを絵の具の罪よりもむしろ画家の罪に帰していた。画家にし・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・ わたくしはこういう点が専門家の着実な研究によって明らかにされる日を待ち望んでいる。もしこの問題が、連鎖反応式に中央アジアのいくつかの遺蹟の発掘をひき起こしたとしたら、やがて千四百年前の中央アジアの偉観がわれわれの前に展開してくるであろ・・・ 和辻哲郎 「麦積山塑像の示唆するもの」
出典:青空文庫