・・・ははあ、膝栗毛時代に、峠路で売っていた、猿の腹ごもり、大蛇の肝、獣の皮というのはこれだ、と滑稽た殿様になって件の熊の皮に着座に及ぶと、すぐに台十能へ火を入れて女中さんが上がって来て、惜し気もなく銅の大火鉢へ打ちまけたが、またおびただしい。青・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・縁側には取り調べを命ぜられた与力が、書役を従えて着座する。 同心らが三道具を突き立てて、いかめしく警固している庭に、拷問に用いる、あらゆる道具が並べられた。そこへ桂屋太郎兵衛の女房と五人の子供とを連れて、町年寄五人が来た。 尋問は女・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・ この日に家康は翠色の装束をして、上壇に畳を二帖敷かせた上に、暈繝の錦の茵を重ねて着座した。使は下段に進んで、二度半の拝をして、右から左へ三人並んだ。上々官金僉知、朴僉知、喬僉知の三人はいずれも広縁に並んで拝をした。ここでは別に書類を捧・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
出典:青空文庫