・・・彼の知性が、よりひろく、強靭であろうと欲している、その角度から少くとも、私小説的な要素を否定している意味での中間小説に対して、単純な断定をさけさせたのであったと考えられる。 昨年十二月号『群像』の月評座談会で、林房雄は、宇野浩二の書いた・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・けれども、いまの日本が、若い知性として小器用さばかりかきたてる社会しかもっていないことについて、あなたがたはどんな抗議をおもちですか。真白なきれいな小さいカラーのように、若々しさによく似合って清潔などんな正義感を、おもちでしょうか。〔一・・・ 宮本百合子 「光線のように」
・・・こんにちでは、昔ながらの日本のコンプレックスが解かれきっていない上に舶来のファクターが重って来て、日本の知性、良心のコンプレックスは実に圧の高いものになった。 第一次大戦から第二次大戦までの文学に、フロイドが与えた影響は非常に広汎であっ・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・などでは、当時文壇や一般に課題とされていた知性の問題、科学性の問題、ヒューマニズムの問題などを、ちゃんと携帯して現地へ出かけて行って、そこでの見聞と携帯して行った思想とを一つの小説の中に溶接して示そうとした。 この作品は他の理由から物議・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・は日本的なるものとして又人間の知性の完全無欠な形として、封建時代の義理人情を随喜渇仰する小説であって、常識ある者を驚かしたが、当時にあっては、彼の復古主義も情勢の在りように従って「紋章」の中に茶道礼讚として萌芽を表しているに止った。 か・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・時代の知性の特色は帰趨を失った知識人の不安であるとされ、不安を語らざる文学、混迷と否定と懐疑の色を漉して現実を見ない文学は、時代の精神に鈍感な馬鹿者か公式主義者の文学という風になった。そして、この不安の文学の主唱者たちは、不安をその解決の方・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・そして、この場合教養と呼ばれるのは、今日ひととおり教養があるとか知性的だとか云われる文学作品の真の生活的・文学的価値を、再評価してゆく生活的・社会的洞察であり、文学的教養と云う意味は、或る作家の作品中の文句を会話の中に自由にとりいれて来るこ・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・ 今日我々がうけついでいる文化、感情、知性は、社会の歴史に制せられてその本質に様々の矛盾、撞着、蒙昧をもっていることは認めなければならない事実である。科学者が科学を見る態度にもこれをおのずから反映している。特に、今日の科学では未だ現実の・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・従って、近代のヨーロッパの知性をうけいれている文学精神は、日本の社会感覚、文学感覚との間に、忍耐をもって埋めてゆかなければならないくいちがいを生じている、というようなことについて、こんにちでは知っていないものもないし、自覚していないものもな・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・こういう社会的真実にたいする追求の怠慢は、知性そのものの不純潔性である。 私自身の生活の経験を考えてみて、身辺のたれそれの生活を考えてみて、ハウスキーパーの「制度」などは決してなかった。ハウスキーパーという名のもとに女性を全く非人間的に・・・ 宮本百合子 「社会生活の純潔性」
出典:青空文庫