・・・ おしげはともかく、六蔵のほうは子供だけに無邪気なところがありますから、私は一倍哀れに感じ、人の力でできることならば、どうにかして少しでもその知能の働きを増してやりたいと思うようになりました。 すると田口の主人と話してから二週間もた・・・ 国木田独歩 「春の鳥」
・・・画家、小説家のような芸術的天分ある婦人や、科学者、女医等の科学的才能ある婦人、また社会批評家、婦人運動実行家等の社会的特殊才能ある婦人はいうまでもなく、教員、記者、技術家、工芸家、飛行家、タイピストの知能的職業方面への婦人の進出は著しいもの・・・ 倉田百三 「婦人と職業」
・・・それだけのもの、つまり智能の未発育な、いくら年とっても、それ以上は発育しない不具者なのね。純粋とは白痴のことなの? 無垢とは泣虫のことなの? あああ、何をまた、そんな蒼い顔をして、私を見つめるの。いやだ。帰って下さい。あなたは頼りにならない・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・ 智能の世界においての貴族である彼は社会の一員としては生粋のデモクラットである。国家というものは、彼にとってはそれ自身が目的でも何でもない。金の力も無論なんでもない。そうかと云って彼は有りふれの社会主義者でもなければ共産党でもない。彼の・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・単に素養が増し智能が増すという『量的』の前提から、天才が増すというような『質的』の向上を結論するのは少し無理ではないか。」こう云った時にアインシュタインの顔が稲妻のようにちょっとひきつったので、何か皮肉が出るなと思っていると、果して「自然が・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・を抽出し、仕留めるには非常な知能の早わざを要するものである。 もっともいわゆる、ルーティン的な仕事であって、予定の方法で、予定の機械の指示する示度を機械的に読み取って時々手帳に記入し、それ以外の現象はどんな事があっても目をふさいで見ない・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・悲しいことにはわれわれはまだ、その聖文字を読みほごす知能が恵まれていない。 数分の休息と三片のキャラメルで自分の体内の血液の成分が正常に復したと見えてすっかり元気を取りもどしてひと息に頂上までたどりつくことができた。 頂上にはD研究・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・このように知能の漸近線の近い動物のほうが、それの遠い人間に比べてそれに近づく速度の早いという事実はかなり注意すべき事だと思ったりした。物質に関する科学の領域にはこれに似た例はまれであろう。 二匹の子猫はだいたい三毛に似た毛色をしていた。・・・ 寺田寅彦 「子猫」
・・・今人の智能古人に比して劣れるが故か。将また時勢の累するところか。わたくしは知らない。わたくしは唯墨堤の処々に今なお残存している石碑の文字を見る時鵬斎米庵らが書風の支那古今の名家に比して遜色なきが如くなるに反して、東京市中に立てる銅像の製作西・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・又文学好きだと言われる婦人は、平生文学書類を手にだもしない女に比すれば却て智能に乏しく、其趣味は遥に低いものだと思っていたからである。然し此等の断定の当っていなかった事は、やがて僕等一同が銀座のカッフェーには全く出入しないようになってから、・・・ 永井荷風 「申訳」
出典:青空文庫