・・・ 堺氏は「およそ社会の中堅をもってみずから任じ、社会救済の原動力、社会矯正の規矩標準をもってみずから任じていた中流知識階級の人道主義者」を三種類に分け、その第三の範囲に、僕を繰り入れている。その第三の範囲というのは「労働階級の立場を是認・・・ 有島武郎 「片信」
・・・歯列を矯正したら、まだいくらか見られる、――いいえ、どっちみち私は醜女、しこめです。だから、その人だって、私の写真を見て、さぞがっかりしたことだろう。私の生れた大阪の方言でいえばおんべこちゃ、そう思って私はむしろおかしかった。あんまりおかし・・・ 織田作之助 「天衣無縫」
・・・それを解決したところで、今までのようにルーズな姉の生活と、無能な甥や、虚栄心の強い気儘な姪の性質を、根本的に矯正しない以上、何をしでかすか判らなかった。道太は宿命的に不運な姉やその子供たちに、面と向かって小言を言うのは忍びなかった。それに弱・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・職業が細かくなりまた忙がしくなる結果我々が不具になるが、それはどうして矯正するかという問題はまずこのくらいにして、この講演の冒頭に述べた己のためとか人のためとかいう議論に立ち帰ってその約りをつけてこの講演を結びたいと思います。 それで前・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・此辺は枝葉の議論として姑く擱き、扨婦人が夫に対して之を軽しめ侮る可らずとは至極の事にして婦人の守る可き所なれども、今の男女の間柄に於て弊害の甚しきものを矯正せんとならば、我輩は寧ろ此教訓を借用して逆に夫の方を警めんと欲する者なり。顔色言語の・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・之を矯正する一日を遅くすれば則ち一日の恥を永うす可し。世人の改新を促して自から謹ましめ以て国の体面を清潔にするは、何は扨置き目下の緊急事なりとて、いよ/\宿論発表の時機到来を認め、昨年八月中より遽に筆を執り、僅々三十日足らずの間に稿を脱した・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ 家長専制の当時のロシアの上流中流社会で、娘が親を矯正することは不可能だった。 ソーニア・コレフスカヤのように、勇敢なインテリゲンツィアの若い婦人たちは、医学を勉強しようとして、科学を勉強するためにさえ家出しなければならなかった。家・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
出典:青空文庫