・・・壮といわんか美といわんか惨といわんか、僕らは黙ったまま一言も出さないでしばらく石像のように立っていた。この時天地悠々の感、人間存在の不思議の念などが心の底からわいて来るのは自然のことだろうと思う。『ところでもっとも僕らの感を惹いたものは・・・ 国木田独歩 「忘れえぬ人々」
・・・ト心定マラズ、定マラヌママニ、フラフラ歩キ出シテ、腐リカケタル杉ノ大木、根株ニマツワリ、ヘバリツイテイル枯レタ蔦一スジヲ、ステッキデパリパリ剥ギトリ、ベツダン深キ意味ナク、ツギニハ、エイット大声、狐ノ石像ニ打ッテカカッテ、コレマタ、ベツダン・・・ 太宰治 「走ラヌ名馬」
・・・先生の一番目の嬢さんがまだ子供の時分この半身像にすっかりラヴしてしまって、おとうさんの椅子を踏み台にしては石像に接吻したそうです。そのさまを油絵にかかした額が客間にかかっていました。霧があって小雨が降って、誠に静かな日でした。 ゼネヴか・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・番兵が石像のごとく突立ちながら腹の中で情婦とふざけている傍らに、余は眉を攅め手をかざしてこの高窓を見上げて佇ずむ。格子を洩れて古代の色硝子に微かなる日影がさし込んできらきらと反射する。やがて煙のごとき幕が開いて空想の舞台がありありと見える。・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・あのアポルロの石像のある処の腰掛に腰を掛ける奴もあり、井戸の脇の小蔭に蹲む奴もあり、一人はあのスフィンクスの像に腰を掛けました。丁度タクススの樹の蔭になって好くは見えません。主人。皆な男かい。家来。いえ、男もいますし女もいます。乞食・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・「古代英雄の石像」、郭沫若「黒猫」「自叙伝」等である。 これら七篇の作品を読み、一貫してつよく心を打たれたのは、これらの中国の作家たちはおそらく小説で飯をたべてはいまい、というリアリスティックな印象であった。 一つ一つの作品について・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・で、わたくしは、雲岡の石像が示しているような、西方から来た様式と、漢代の画像石などの示しているような、流麗な線、細い肢体を主にするあの様式とが、相混じて一つの特殊な様式を作り、それが推古仏の源流となったのではなかろうかと空想したりなどしてい・・・ 和辻哲郎 「麦積山塑像の示唆するもの」
出典:青空文庫