・・・ 近づいて見ると、はたして一艘の小舟の水際より四五間も曳き上げてあるをその周囲を取り巻いて、ある者は舷に腰かけ、ある者は砂上にうずくまり、ある者は立ちなど、十人あまりの男女が集まっている、そのうちに一人の男が舷に倚って尺八を吹いているの・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・科学上の仕事は砂上の家のような征服者の栄華の夢とは比較ができない。 しかしまた考えてみると一般相対性理論の実験的証左という事は厳密に言えば至難な事業である。たとえ遊星運動の説明に関する従来の困難がかなりまで除却され、日蝕観測の結果がかな・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・風まじり雨ふる寺の犬ふせぎしぶきのぬれにうつるみあかし寒灯ともすれば沈灯火かきかきて苧をうむ窓に霰うつ声砂月涼そとの浜千さとの目路に塵をなみすずしさ広き砂上の月薔薇羽な・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
出典:青空文庫