・・・けれども彼は落葉だけ明るい、もの寂びた境内を駆けまわりながら、ありありと硝煙の匂を感じ、飛び違う砲火の閃きを感じた。いや、ある時は大地の底に爆発の機会を待っている地雷火の心さえ感じたものである。こう云う溌剌とした空想は中学校へはいった後、い・・・ 芥川竜之介 「少年」
・・・戦船百八十隻がたがいに砲火をまじえている海峡。シロオテは、日の没するまで語りつづけたのである。 日が暮れて、訊問もおわってから、白石はシロオテをその獄舎に訪れた。ひろい獄舎を厚い板で三つに区切ってあって、その西の一間にシロオテがいた・・・ 太宰治 「地球図」
・・・バルビュスの「砲火」などを読んだ人々は、燈火管制下の夜の凄さというものは、仮死どころか、その闇の中にあって異常に張りつめられている注意、期待、決意がかもし出す最も密度の濃い沈黙的緊張の凄さであることを、実感をもって思い出すであろう。戦線の兵・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・鉄、ニッケル、ジュラルミン等の原鉱を多量に生産することが分ったそのためにイタリーは附近の土民との間に砲火を交えることを敢て辞さない。そして、外国の新聞はこの戦闘行為の性質を解剖して、その背後の勢力を考えるとこの白沙漠に於ける戦闘はスペインの・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・殆どすべての学者、芸術家がマドリッド政府の側に在り、有名なセロの名手、私たちに馴染ふかいパブロ・カザルスが全財産を寄附したり、画家ピカソがスペイン美術をファシストの砲火から守るためにマドリッドのプラド美術館館長に任命されたりしているというこ・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・ツァーの砲火の下に罪なく無智な労働者、女、子供の血が雪を染める間、ゴーリキイは大衆に混ってこの歴史的殺戮の証人となった。戦慄すべき記録「一月九日」はかくて書かれた。引きつづいてロシアの各地に勃発した人民殺戮に対する抗議のストライキの間、ゴー・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・岡本かの子さんは、近頃一貫してああいう感情表現をしていられるが、村や店先から出て行って砲火の下にいる、前線の兵士たちがあの文章をよんで何を感じ、何を理解し得るでしょうか。兵士たちは、ごく普通の市民の一人一人であり、なみの人間であり、而もそれ・・・ 宮本百合子 「身ぶりならぬ慰めを」
出典:青空文庫