・・・太陽は磨きたての藍銅鉱のそらに液体のようにゆらめいてかかり融けのこりの霧はまぶしく蝋のように谷のあちこちに澱みます。(ああこんなけわしいひどいところを私は渡って来たのだな。けれども何というこの立派 諒安は眼を疑いました。そのいちめん・・・ 宮沢賢治 「マグノリアの木」
・・・ 人間は、花や小鳥や、天と地とがそうであるように、お互に助け合い、其の人々の持っているよい点を尚お磨きながら、楽しく睦じく、そして正しく暮して行くべきだと云う事を、芳子さんは知っているのです。 ところが、或る日、五時間目の地理が済ん・・・ 宮本百合子 「いとこ同志」
・・・ この小説で、作者はおそらく作品の小さくて破綻のない気分の磨き上げなどというところを目ざさず、大きくダイナミックに動いて作品として勇気のある不統一ならばそれが生じることを敢ておそれぬ心がまえであったのだろう。描こうとする現実と平行に走っ・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・から「みなさん、歯を磨きなさい!」というところまで拡っている。 映画はソヴェト同盟内各共和国の直営だ。鉄、石油、農業用トラクター、パン、等が年々計画生産で行われている通り映画製作も計画生産だ。一九二八――二九年の例をとって見るとソヴキノ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・男を観察し、女中の留守には自分の洗ったお茶碗を傍で拭き、得意の庖丁磨きをすることを恒例とする良人、労農派の総帥山川均氏をはじめ、親類の男の誰彼が特殊な事情でそれぞれ女のする家のことをもよくするということで、すべての男性というものを気よくその・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・のお靴を磨きお髪あげをする黒坊の群も居ります。るろうの伊太利人は、バンジョーを胸から提げて道傍に立ちます。此の細長い、戸数の僅かな村でありながら、其の木の陰や森の彼方には、種々雑多な人種が、各自の力限りの生活を営んで居るのでございます。・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 和久屋ってね、 昔お女郎屋をして居たんだって、 作りなんか、かなり違いましたけど磨きの行き届いた広い階子や女王のきゃしゃな遊芸の上手なのなんかはどことなし他所と違ってました。 雨なんか降ると主婦と娘の、琴と胡弓の合奏をきか・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・そうして観て行って、成功したカッスル夫妻の様々な新しい踊りの姿、カッスルの出征、やがて二人が最後に一緒におどる踊り、カッスルは軍服で、カッスル夫人は白い装でおどるあのワルツ風の踊りは、実に美しかった。磨きぬかれた舞踊の技術と情緒の含蓄と、し・・・ 宮本百合子 「表現」
・・・ ドライサアは大変バルザックがすきだそうで、そう云われれば文体などでもバルザック風に所謂文学的磨きなどに拘泥しないで、いきなり生活へ手をつっこんでそこからつかみ出して書いているようなところに、ある共通なものがある。 主人公クライドが・・・ 宮本百合子 「文学の大陸的性格について」
・・・油の磨きで黒黒とした光沢のある革張りのソファや椅子の中で、大尉の栖方は若若しいというより、少年に見える不似合な童顔をにこにこさせ、梶に慰めを与えようとして骨折っているらしかった。食事のときも、集っている将校たちのどの顔も沈鬱な表情だったが、・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫