・・・そうしてその机の上へ、恭しそうに青磁の香炉や金襴の袋を並べ立てた。「その御親戚は御幾つですな?」 お蓮は男の年を答えた。「ははあ、まだ御若いな、御若い内はとかく間違いが起りたがる。手前のような老爺になっては、――」 玄象道人・・・ 芥川竜之介 「奇怪な再会」
・・・想像していた通り、天井も柱も煤の色をした、見すぼらしい八畳でしたが、正面に浅い六尺の床があって、婆娑羅大神と書いた軸の前へ、御鏡が一つ、御酒徳利が一対、それから赤青黄の紙を刻んだ、小さな幣束が三四本、恭しげに飾ってある、――その左手の縁側の・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・依田さんの前には、大層身綺麗にしている、少し太った青年が恭しげに据わって、話をしている。僕は依田さんに挨拶をして、少し隔たった所に割り込んだ。簾越しに川風が吹き込んで、人の込み合っている割に暑くはなかった。 僕は暫く依田さんと青年との対・・・ 森鴎外 「百物語」
出典:青空文庫