・・・僕よりも少し年上だけに、不断はしッかりしたところのある女だが、結婚の席へ出た時の妻を思えば、一、二杯の祝盃に顔が赤くなって、その場にいたたまらなくなったほどの可愛らしい花嫁であった。僕は、今、目の前にその昔の妻のおもかげを見ていた。 そ・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・ 二人の百姓は、町へ出て物を売った帰りと見えて、停車場に附属している料理店に坐り込んで祝盃を挙げている。 そこで女二人だけ黙って並んで歩き出した。女房の方が道案内をする。その道筋は軌道を越して野原の方へ這入り込む。この道は暗緑色の草・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・自分は士官室で艦長始め他の士官諸氏と陛下万歳の祝杯を挙げた後、準士官室に回り、ここではわが艦長がまだ船に乗らない以前から海軍軍役に服していますという自慢話を聞かされて、それからホールへまわった。 戦時は艦内の生活万事が平常よりか寛かにし・・・ 国木田独歩 「遺言」
・・・ 二人の百姓は、町へ出て物を売った帰りと見えて、停車場に附属している料理店に坐り込んで祝杯を挙げている。 そこで女二人だけ黙って並んで歩き出した。女房の方が道案内をする。その道筋は軌道を越して野原の方へ這入り込む。この道は暗緑色の草・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・助け合って行きたいと思います、という私の祝杯の辞も思い出された。いますぐ、渋谷へ飛んで行って、確めてみたいとさえ思ったが、やはり熊本君の下宿の道順など、朦朧としている。夢だったのに違いない。公園の森を通り抜け、動物園の前を過ぎ、池をめぐって・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・王子は、四年前の恐怖を語り、また此度の冒険を誇り、王さまはその一語一語に感動し、深く首肯いてその度毎に祝盃を傾けるので、ついには、ひどく酔いを発し、王妃に背負われて別室に退きました。王子と二人きりになってから、ラプンツェルは小さい声で言いま・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・ まだ組合なんか無かった頃の、皆可愛い子分達の中心に、大きく坐って、祝杯などを挙げた当時のことなどが、彼に甦って来た。「そんな、ひどい目に遭わしたのか?」 利平は、蒲団の上へ、そろそろと、起き上った。「だってさ」 女房は・・・ 徳永直 「眼」
出典:青空文庫