・・・二十五種類の辞句のうちに、ただの一枚も、こころから日本の未来によびかけて、その平和と平安のために美しい、現実的な祝福をあたえたものがない。このことについて、わたしたちは感じるところがないだろうか。これらの人々のような立場になったとき、こうい・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・彼女に祝福あれ。彼女によき夫あれ。彼女によき子女あれ。而して彼女の天使の如き純潔何時までも地の栄たれ光たれ。直かれ。優しかれ。美しかれ。神よ、余の弱きを支へ給へ。余をして汝の卑きながら忠実なる僕たらしめ給へ。若輩は徒事に趨るもの多し。願くば・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・精神の活動力のさかんな祖父と両親とに祝福されてケーテの誕生はもたらされたわけである。 ケーニヒスベルクの町を流れるプレーゲル河に沿う広い家で、幼い娘ケーテは兄と一緒に育った。重く荷を積んで、暗い煉瓦船が河を辷って行く。ケーテの幼い心に印・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・の人々は、彼らの青春の祝福されるべき反逆性の頭上に一撃を加えられた。当時大逆事件と呼ばれたテロリストのまったく小規模な天皇制への反抗があらわれ、幸徳秋水などが死刑に処せられた。自由民権を、欽定憲法によってそらした権力は、この一つの小規模な、・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・ 三位一体は大資本、法王、軍閥で、祝福の代りに大衆の疲弊と流血があるだけだ。 一九三〇年、革命劇場上演の「第一騎兵隊」は、一九一七年――一九二〇年の国内戦の歴史、第一騎兵隊の功績を芸術化するばかりではない。帝政時代のロシア兵営内の生・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・という祝福の形をとった。女で、職業や仕事をもっている人のとき、私たちは、どうせ楽なのではないから、とこの現実の裡で家庭と仕事を両立させて行こうとする女の困難さをあからさまに見た上で、大変だろうがという反面に、でもね、と認めるものがあったので・・・ 宮本百合子 「これから結婚する人の心持」
・・・当時の文学のありようから、真の新進、精鋭は見出し難く、受賞の範囲は、それぞれの作家の若々しい未来を鼓舞し祝福する方向に赴かず、寧ろ、多難な文学の道をこれまでの何年間か努力をつづけて今日に到っているという作家への、慰労賞めいたものとなった。文・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・来る年を祝福して、よかれあしかれ是好年として積極的に迎える心持になりました。そういう意味から、新年を祝う複雑なしきたりだの、その盛大さというものを考えてみると、どうもこれは苦労人の考え出したものらしく思われますがいかがでしょう。例えば中国の・・・ 宮本百合子 「歳々是好年」
・・・その各自の熱情に従って、その美しき叡智と純情とに従って、もしも其爆発力の表現手段が分裂したとしたならば、それは明日の文学の祝福すべき一大文運であらねばならぬ。そうして、明日の文学は分裂するであろう。大いなる酒神は、かの愚な時計の振り子の如く・・・ 横光利一 「黙示のページ」
・・・彼らの心は偶像の内に融け入り、ただ無限の感謝と祝福との内に、強烈な光燿と全心の軽快とを経験するのである。――実際、興奮した彼らの心は、彫刻に対しても音楽に対しても、きわめて敏感になっている。その内のいのちの強さと濃淡とは、たとえ明確にではな・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫