・・・ある上役や同僚は無駄になった香奠を会費に復活祝賀会を開いたそうである。もっとも山井博士の信用だけは危険に瀕したのに違いない。が、博士は悠然と葉巻の煙を輪に吹きながら、巧みに信用を恢復した。それは医学を超越する自然の神秘を力説したのである。つ・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・ 昭和十一年の初夏に、私のはじめての創作集が出版せられて、友人たちは私のためにその祝賀会を、上野の精養軒でひらいてくれた。偶然その三日前に中畑さんは東京へ出て来て、私のところへも立ち寄ってくれた。私は中畑さんに着物をねだった。最上等の麻・・・ 太宰治 「帰去来」
・・・まって祝い酒を呑み、ひとりずつ順々に隠し芸をして夜を更しいよいよ翌朝になってやっとおしまいのひとりが二枚の皿の手品をやって皆の泥酔と熟睡の眼をごまかし或る一隅からのぱちぱちという喝采でもって報いられ、祝賀の宴はおわった。 次郎兵衛は、こ・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・十一月三日の開票日の前日、日本の代表的な新聞はデューイ氏当選確実、共和党早くも祝賀会準備と、まるで丸の内あたりでその前景気をみてでもきたように書きたてた。 ところが、開票の結果は予想がうらぎられた。民主党のトルーマン大統領が再選した。ト・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
何心なく場内を眺めているうちに、不思議なことに注意をひかれた。その夜は、明治、大正、昭和と経て還暦になった或る洋画家のために開かれた祝賀の会なのであった。この燈火の煌いた華やかな宴席には、もう何年も前に名をきき知っているば・・・ 宮本百合子 「或る画家の祝宴」
・・・夫妻がノーベル賞を授与された祝賀会の講演で次のようにのべたピエールの言葉こそ、キュリー夫妻を不滅にした科学の栄光であると思います。「私は人間が新しい発見から悪よりも寧ろ善をひき出すと考える者の一人であります」と。〔一九三九年十二月〕・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・ 一九二七年にケーテ・コルヴィッツの六十歳の祝賀が盛大に行われた。彼女の版画はその材料として都会のどぶ板に使う石版を使うからといってウィルヘルム二世から「どぶ石芸術の画家」といわれたケーテは、今やドイツの誇りとして、あらゆる方面からのぎ・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・この日ごろ日本の新聞としての公器性が失われていることを遺憾に思っている真面目な人々は、十一月三日のほとんどすべての新聞がデューイ氏当選確定とかき、デューイ氏断然勝たん、共和党早くも祝賀準備と、まるで丸の内へんで見てでも来たような記事をのせ、・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・なる墓標的常識を突破した、喜ばしき奔騰者の祝賀である。より深き認識への感覚 より深き認識へわれわれの主観を追跡さす作物は、その追跡の深さに従ってまた濃厚な感覚を触発さす。それはわれわれの主観をして既知なる経験的認識から未知な・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・栖方の学位論文通過の祝賀会を明日催したいから、梶に是非出席してほしい、場所は横須賀で少し遠方だが、栖方から是非とも梶だけは連れて来て貰いたいと依頼されたということで、会を句会にしたいという。句会の祝賀会なら出席することにして、梶は高田の誘い・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫