・・・へんな言い方だが、生きている人間には何か神性の一かけらでもあるのか、私たちばかりではなく、その畑に逃げて来ている人たち全部、誰もやけどをしなかった。おのおのが、その身辺の地上で焔えているベトベトした油のかたまりのようなものに蒲団やら、土やら・・・ 太宰治 「薄明」
・・・それがどういう感情であるかと問われると私にも分らないが、しかし例えばある神性と同時にある狂暴性を具えた半神半獣的のビーイングの歓喜の表現だと思って見ると、そう思えない事はない。 私は遠い神代のわが大八洲の国々の山や森が、こういう神秘的な・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・――神性を愛するよりほか出来なく成る、とも云って居る。結婚の自然的な結果は生殖である。此は生理的の結果で、人間の内に神が死なない限り、人は只異性と公許の交接によって子供を産む事――その事実のみに幸福を感じて満足するものではないのだ。自分は結・・・ 宮本百合子 「黄銅時代の為」
・・・ドストイエフスキーなどがよみ直されるのみならず、人間の神性とか獣性とかいう問題にからんで云々され、不安の問題が上程され、その深めるための文学的努力はされずに舟橋聖一氏は文学における行動性ということを主張しているし、なかなか壮観です。その行動・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・p.277◎彼は宗教の問題を一種の神性の狂信を与えている国家の問題に移す。そして、彼の生涯の最も真摯な告白の中で「君は宗教を信じているか」という問に対し 極めて実直な奴隷のように「僕はロシアを信じている」と答えるのである。 なぜなら・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・人間生活の暗い半面、神性に対する獣としての人間が描かれはじめたのであったが、自然主義も日本の特殊な社会的・文化的地盤へ落ちては、独特な花を開かざるを得なかった。その精神史においてまだ一度も人間らしい人間としての自覚、活動の歓喜を味ったことの・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
出典:青空文庫