・・・いまいましい、腕づくでもぎ取ってくれようとすると「オオ神様泥棒が」って、殉教者の様な真似をしやあがる。擦った揉んだの最中に巡的だ、四角四面な面あしやがって「貴様は何んだ」と放言くから「虫」だと言ってくれたのよ。 え、どうだ、すると貴様は・・・ 有島武郎 「かんかん虫」
・・・寡婦は仕事に身を入れているのでそれには気がつかず、やがて御飯時にしたくをしようと立ち上がった時、ぴかぴか光る金の延べ板を見つけ出した時の喜びはどんなでしたろう、神様のおめぐみをありがたくおしいただいてその晩は身になる御飯をいたしたのみでなく・・・ 有島武郎 「燕と王子」
・・・「だって、おばさん――どこかの山の神様のお祭に踊る時には、まじめな道具だって、おじさんが言うんじゃないの。……御幣とおんなじ事だって。……だから私――まじめに町の中を持ったんだけれど、考えると――変だわね。」「いや、まじめだよ。この・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・「ごく内々の事でがすがなす、明神様のお姿というのはなす。」 時に、勿体ないが、大破落壁した、この御堂の壇に、観音の緑髪、朱唇、白衣、白木彫の、み姿の、片扉金具の抜けて、自から開いた廚子から拝されて、誰が捧げたか、花瓶の雪の卯の花が、・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・このまま苦もなく死ぬことができれば満足であるけれど、神様がわれわれにそういう幸福を許してくれないかも知れない、と自分もしんから嘆息したのであった。 当時はただ一場の癡話として夢のごとき記憶に残ったのであるけれど、二十年後の今日それを極め・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・民さんと一所に居れば神様に抱かれて雲にでも乗って居る様だ。僕はどうしてこんなになったんだろう。学問をせねばならない身だから、学校へは行くけれど、心では民さんと離れたくない。民さんは自分の年の多いのを気にしているらしいが、僕はそんなことは何と・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・もしわれわれが事業を遺すことができなければ、われわれに神様が言葉というものを下さいましたからして、われわれ人間に文学というものを下さいましたから、われわれは文学をもってわれわれの考えを後世に遺して逝くことができます。 ソウ申しますとまた・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・よしやあなたが主、御自身であっても、わたくしを元へお帰しなさる事はお出来になりますまい。神様でも、鳥よ虫になれとは仰しゃる事が出来ますまい。先へその鳥の命をお断ちになってからでも、そう仰しゃる事は出来ますまい。わたくしを生きながら元の道へお・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・お婆さんはお爺さんに向って、「私達がこうして、暮らしているのもみんな神様のお蔭だ。このお山にお宮がなかったら、蝋燭が売れない。私共は有がたいと思わなければなりません。そう思ったついでに、お山へ上ってお詣りをして来ます」と、言いました。・・・ 小川未明 「赤い蝋燭と人魚」
・・・これは文学の神様のものだから襟を正して読め、これは文学の神様を祀っている神主の斎戒沐浴小説だからせめてその真面目さを買って読め、と言われても、私は困るのである。考えてみれば、日本は明治以後まだ百年にもならぬのに、明治大正の作家が既に古典扱い・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
出典:青空文庫