・・・ そして其処には只だ一つ宗教というものがあって、其所へ逃げて行く事は出来るけれども、又一面より見れば此の宗教という者も、一種の禁欲主義に外ならないではないか、人間的な生活――此の煩わしい現実の生活から離れて、特殊な欲望を禁じて強いて・・・ 小川未明 「絶望より生ずる文芸」
・・・ 実際、いかに絶大の権力を有し、百万の富を擁して、その衣食住はほとんど完全の域に達している人びとでも、またかの律僧や禅家などのごとく、その養生のためには常人の堪えるあたわざる克己・禁欲・苦行・努力の生活をなす人びとでも、病なくして死ぬの・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ 実際如何に絶大の権力を有し、巨万の富を擁して、其衣食住は殆ど完全の域に達して居る人々でも、又た彼の律僧や禅家などの如く、其の養生の為めには常人の堪ゆる能わざる克己・禁欲・苦行・努力の生活を為す人々でも、病いなくして死ぬのは極めて尠いの・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・ 酒やコーヒーのようなものはいわゆる禁欲主義者などの目から見れば真に有害無益の長物かもしれない。しかし、芸術でも哲学でも宗教でも実はこれらの物質とよく似た効果を人間の肉体と精神に及ぼすもののように見える。禁欲主義者自身の中でさえその禁欲・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・昔から世界のいろいろな人種の間に行なわれた禁欲主義の根本に横たわる一面の真理に触れているとも思った。しかし美しい芸術が人の心に及ぼす影響はすぐその場で手っ取り早く具体的な自覚的行為に両替して、それで済まされるものだろうか。それではあまりに物・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・私は実際、正直な所其時、英雄的な、人道的な、一人の禁欲的な青年であった。全く身も心もそれに相違なかった。だから、私は彼女に、私が全で焼けつくような眼で彼女の××を見ていると云うことを、知られたくなかったのだ。眼だけを何故私は征服することが出・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
出典:青空文庫