・・・ というのは私にとっては絶対に禁煙を意味しない。私は一生禁煙しようと思わぬし、思っても実行出来る私ではない。煙草が吸えなくなれば、私は何をしていいのだろうか。恐らく気が狂うか全くの虚脱状態になってしまうだろう。 起きなければ、起きなけれ・・・ 織田作之助 「中毒」
・・・ ベルリンでも電車の内は禁煙であったが車掌台は喫煙者のために解放されていた。山高帽を少し阿弥陀に冠った中年の肥大った男などが大きな葉巻をくわえて車掌台に凭れている姿は、その頃のベルリン風俗画の一景であった。どこかのんびりしたものであった・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・「禁煙」。この室に寝台はない。 だが、レーニンが住んでいた室という写真の他のどれを見ても、机がきっとあると同時にきっと粗末な寝台がうつっている、彼がそれだけ、いつも倹約に生活していたことの証拠だろう。 ――元、この室にいろんなものが・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
出典:青空文庫