・・・桂月先生はこの鴨の獲れないのが大いに嬉しいと見えて、「えらい、このごろの鴨は字が読めるから、みんな禁猟区域へ入ってしまう」などと手を叩いて笑っていた。しかもまた、何だか頭巾に似た怪しげな狐色の帽子を被って、口髭に酒の滴を溜めて傍若無人に笑う・・・ 芥川竜之介 「鴨猟」
・・・そして、ようやく、この禁猟区の中のこの池を見いだしたというようなわけです。」と、老いたるがんに向かって、いいました。「そのことは、私にもよくわかっている。だから、人間がめったにゆかないところを探すのだ。もっと遠い、寒い国へ向かって旅立ち・・・ 小川未明 「がん」
・・・同時に、そこは禁猟区だった。畠の岸で見つけた雲雀の卵を取って、罰金と仕末書を取られた者がある。農民たちは、それでも、名勝地帯だというんで怺えていた。今に、国立公園になるというんで、郷土的な名誉心をそそられたりした。 便所のところで、剣が・・・ 黒島伝治 「名勝地帯」
出典:青空文庫