・・・ 純文学、私小説は、その語りてである知識人の社会生活の狭隘化と弱化につれて貧困になっているのであるから、その不満・反省の一形態として、横光氏の所論は反響をもった。共感は自意識の問題や、近代人の偶然性の説明に対する漠然とした疑いを含みつつ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・こうして日本の私小説は悲しい誕生をつげた。 ヒューマニズムも白樺の代表者である武者小路実篤の「人類」観を見ても、どんなにヨーロッパの近代的ヒューマニズムとちがっているかがわかる。日本のヒューマニズムは、ヒューマニズムの歴史的前進の核であ・・・ 宮本百合子 「自我の足かせ」
・・・従来の私小説に対して、より広く複雑な社会の姿をさながらに描き出さなければ所謂人間像も芸術のリアリティとして生かされないという理解に立って、社会小説は形式としての長篇小説を予想した。長篇流行の風が萌した。日本の文学も私小説の時代を経て社会小説・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・身辺小説、私小説からの蝉脱の課題がおこった当時は、文学作品の単行本がちっとも売れないという顕著な現象を一方に伴っていた。今日では、単行本の売れゆきは激しくて、インフレーションをおこしている一方に、そもそも文学とはどういうものなのだろうかとい・・・ 宮本百合子 「人生の共感」
・・・「ほらのぼりだな、音でわかっるね、こういう音は馬力を出して居るに違いない 音でわかりますよ」 うるさい、うるさい H・Kのいたずら 文学少女が来る。「私小説かきたいんですが」「あなた恋愛をしたことがあ・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・といういせいのいい論文で、社会小説を主張して私小説から脱却しようとする今日の潮流に合していますが、一社会人として社会の進歩の歴史に対して責任を負わない客観主義に立つ社会小説というものは、人間一人一人の自覚と自主が確立される社会を建設してゆこ・・・ 宮本百合子 「一九四七・八年の文壇」
・・・ 芸術の根本的本質を持たないまま 日本の私小説はそこからぬけ出して、かえり見るだけの力の限界を踰えてより拡大された自己認識を与えるに成功し得なかった。 今日の文学の課題 尾崎士郎◎一つの慾望が今度はしっかりと決定するかと・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・ 民主主義文学の最大の課題は、基盤となる階級の革命的成長とともに、ブルジョア文学の伝統である「私小説」から「私」を人民の文学の中へ解放することです。ブルジョア的な観念の中で主張される自我、個々なる個性が、現代の現実の中でその正当な発展的・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・ この面白い作家の欲望と現実との間にあるギャップは、一つは日本の近代文学が伝統として来た私小説の性質からの制約、小さな私というものの歴史的な本質からの障害が原因となっているだろうし、他の一つの理由は、小説というものがそれほど作家が生活し・・・ 宮本百合子 「遠い願い」
・・・ 私小説はそれを克服して後始めて本格小説となるという河上徹太郎、小林秀雄両氏などの説も今の作家にとっては何よりの警告であったと思うが、そのようになるための方法としてでも私は制作をするということが本業ではなく副業であると見る見方をとらねば・・・ 横光利一 「作家の生活」
出典:青空文庫