・・・我輩は移転後にこの話を聞いて憮然として彼の未来を想像した。 魯西亜と日本は争わんとしては争わざらんとしつつある。支那は天子蒙塵の辱を受けつつある。英国はトランスヴールの金剛石を掘り出して軍費の穴を填めんとしつつある。この多事なる世界は日・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・ 私はたのしみの為にわざと返事を明かにせず行くと、右手の石や材木や乱脈の上に「前川、この先に移転仕り候」と大きな看板が出ていた。「よかったわね」「よかった」「ああこの家なんですか……」 私共はすぐ前に河を見晴す座敷に通っ・・・ 宮本百合子 「九月の或る日」
・・・ 榎南謙一 特殊部落に恐るべき悪臭をふきつける火葬場移転要求をして、二年も闘っているところへ指導に行った若い全会の闘士と、それを支持する少年等、やがてその村をおそった嵐について書かれ、実感のこもった、描写もある。しかし、この部落の闘争・・・ 宮本百合子 「小説の選を終えて」
・・・区画整理で、寺の墓地を移転するについて、柳生但馬守の墓を掘ったら、中には何もなかったと云う話をした。「へえ、奇体なことがあるね、どうしたんだろう」 まさ子は興味を示した顔つきで、その若者やなほ子を見た。そんなとき、眼に平常の母らしい・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
出典:青空文庫