・・・こうなると話にも尾鰭がついて、やれあすこの稚児にも竜が憑いて歌を詠んだの、やれここの巫女にも竜が現れて託宣をしたのと、まるでその猿沢の池の竜が今にもあの水の上へ、首でも出しそうな騒ぎでございます。いや、首までは出しも致しますまいが、その中に・・・ 芥川竜之介 「竜」
・・・張子の顔や、練稚児。しゅくしゃ結びに、ささ結び、やましな結びに風車。瓢箪に宿る山雀、胡桃にふける友鳥……「いまはじめて相分った。――些少じゃが餌の料を取らせよう。」 小春の麗な話がある。 御前のお目にとまった、謡のままの山雀・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・その手水鉢の周囲に、ただ一人……その稚児が居たのであった。 が、炎天、人影も絶えた折から、父母の昼寝の夢を抜出した、神官の児であろうと紫玉は視た。ちらちら廻りつつ、廻りつつ、あちこちする。…… と、御手洗は高く、稚児は小さいので、下・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・ やがて、唇にふくまれた時は、かえって稚児が乳を吸うような思いがしたが、あとの疼痛は鋭かった。 渠は大夜具を頭から引被った。「看病をいたしますよ。」 お澄は、胸白く、下じめの他に血が浸む。……繻子の帯がするすると鳴った。・・・ 泉鏡花 「鷭狩」
・・・ねりものの稚児。童男、童女二人。よろず屋の亭主。馬士一人。ほかに村の人々、十四五人。候 四月下旬のはじめ、午後。――第一場場面。一方八重の遅桜、三本ばかり咲満ちたる中に、よろず屋の店見ゆ。鎖・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・木賃宿を泊り歩いているうちに周旋屋にひっ掛って、炭坑へ行ったところ、あらくれの抗夫達がこいつ女みてえな肌をしやがってと、半分は稚児苛めの気持と、半分は羨望から無理矢理背中に刺青をされた。一の字を彫りつけられたのは、抗夫長屋ではやっていた、オ・・・ 織田作之助 「競馬」
出典:青空文庫