・・・が、その中に追々空想も種切れになってしまう。それから強隣の圧迫も、次第に甚しくなって来るらしい。そこで本間さんは已むを得ず、立った後の空地へ制帽を置いて、一つ前に連結してある食堂車の中へ避難した。 食堂車の中はがらんとして、客はたった一・・・ 芥川竜之介 「西郷隆盛」
・・・つぎからつぎと、いろんな軍歌を放送して、とうとう種切れになったか、敵は幾万ありとても、などという古い古い軍歌まで飛び出して来る仕末なので、ひとりで噴き出した。放送局の無邪気さに好感を持った。私の家では、主人がひどくラジオをきらいなので、いち・・・ 太宰治 「十二月八日」
・・・あいにくこの方面も種切れです。が、まあせっかくだから――いつおいでになっても、私の談話が御役に立った試がないようだから――つまらん事でも責任逃れに話しましょう。 私が小説を書き出したのは、何年前からか確と覚えてもいないが、けっして古くは・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
・・・しかし間もなくケーテがその職人から教わることは種切れとなった。父シュミットは十七歳の娘をベルリンまで絵の勉強に旅立たせた。ベルリンには兄息子が勉強に出ていたのであった。 ケーテがベルリンで師事した教師はシャウフェルというスイス人で、この・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
出典:青空文庫