・・・ぼんやり、Hと二人で、雌雄の穴居の一日一日を迎え送っているのである。Hは快活であった。一日に二、三度は私を口汚く呶鳴るのだが、あとはけろりとして英語の勉強をはじめるのである。私が時間割を作ってやって勉強させていたのである。あまり覚えなかった・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・人間がまだ穴居生活をしていたころから、その希望は本能的な生活の欲望として、人間の内に働いていたにちがいない。ごく原始的な表現で、例えばより工合よく体にかける毛皮を縫い合わせたいという気持がいつもあって、或るとき或る人間が先の尖った石か貝の片・・・ 宮本百合子 「家庭創造の情熱」
・・・ 人間の生活が、きわめて原始的であって、わずかに棍棒を武器として野獣を狩って生活していた頃の生産状態では、文化も非常に原始的で数の観念さえもはっきりせず、絵といえば穴居の洞窟の壁にほりつけた野獣の絵があるにとどまった有様であった。それが・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・女も男も獣の皮か木の葉をかけて、極く短い綴りの言葉を合図にして穴居生活を営んでいる時代に、原始男女の世界は彼等の遠目のきく肉眼で見渡せる地平線が世界というものの限界であった。人類によって理解され征服されていなかった自然の中には、様々のおそろ・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・ 大昔は穴居していた人間。それから城廓とそのぐるりの小舎に住んでいた人々。市民の家屋というものが、都市に出現するようになってから、われわれの文化史は重大な変化を経験しました。この変化につれて「家を建てる人」の社会における意味も一世紀ごと・・・ 宮本百合子 「よろこびの挨拶」
出典:青空文庫