・・・ましてや議員席から時々突発する短い捨て言葉などは一つも聞き取れなかった。 そのうちに、始めに出た極度の大声を出す人が壇上に立ってまた何事か述べはじめた。 朝からだんだんに醗酵していた私の不満は、この苦しげな大声を再び聞く事によって、・・・ 寺田寅彦 「議会の印象」
・・・来年にもあるいはあすにも、宝永四年または安政元年のような大規模な広区域地震が突発すれば、箱根のつり橋の墜落とは少しばかり桁数のちがった損害を国民国家全体が背負わされなければならないわけである。 つり橋の場合と地震の場合とはもちろん話がち・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・ 突発した事件の目撃者から、その直後に聞き取ったいわゆる証言でも大半は間違っている。これは実験心理学者の証明するとおりである。そのいわゆる実見談が、もう一人の仲介者を通じて伝えられる時は、もう肝心の事実はほとんど蒸発してしまって、他のよ・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・そうしたある美しい金曜日の昼食時に美しい日光のさした二階食堂でその朝突発した首相遭難のことを聞き知った。それからもいまだに好晴の金曜がつづいている。昼食後に研究所の屋上へ上がって武蔵野の秋をながめながら、それにしてももう一ぺん金曜日の不思議・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・従ってある現象を定むる因子中より第一にいわゆる偶発的突発的なるものを分離して考うれども、世人はこの区別に慣れず。一例を挙ぐれば、学者は掌中の球を机上に落す時これが垂直に落下すべしと予言す。しかるに偶然窓より強き風が吹き込みて球が横に外れたり・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・彼らの仕事しながらの会話によって対岸の廃工場が某の鋳物工場であった事、それがようやく竣成していよいよ製造を始めようとするとたんに経済界の大変動が突発してそのまま廃墟になってしまった事などを知った。 絵の具箱を片付けるころには夕日が傾いて・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・わが家の先祖の誰かがどこかでどうかしていたと同じ時刻に、遠い遠い宇宙の片隅に突発した事変の報知が、やっと今の世にこの世界に届くという事である。 しかしそう云えばいったいわれらが「現在」と名づけているものが、ただ永劫な時の道程の上に孤立し・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・あの恐ろしい函館の大火や近くは北陸地方の水害の記憶がまだなまなましいうちに、さらに九月二十一日の近畿地方大風水害が突発して、その損害は容易に評価のできないほど甚大なものであるように見える。国際的のいわゆる「非常時」は、少なくも現在においては・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・破壊的で壊家を生じ死傷者を出すようなのでも三四年も待てばきっと帝国領土のどこかに突発するものと思って間違いはない。この現象はわが国建国以来おそらく現代とほぼ同様な頻度をもって繰り返されて来たものであろう。日本書紀第十六巻に記録された、太子が・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・考え得らるべき最悪の条件の組み合わせがあすにも突発しないとは限らないからである。同じ根本原因のある所に同じ結果がいつ発生しないと保証はできないのである。それで全国民は函館罹災民の焦眉の急を救うために応分の力を添えることを忘れないと同時に各自・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
出典:青空文庫