・・・ 四五月ごろ全国の各所でほとんど同時に山火事が突発する事がある。一日のうちに九州から奥羽へかけて十数か所に山火事の起こる事は決して珍しくない。こういう場合は、たいてい顕著な不連続線が日本海から太平洋へ向かって進行の途中に本州島弧を通過す・・・ 寺田寅彦 「藤の実」
・・・ あるいは門前の川が汎濫して道路を浸している時に、ひざまでも没する水の中をわたり歩いていると、水の冷たさが腿から腹にしみ渡って来る、そうしてからだじゅうがぞくぞくして来ると同時にまた例の笑いが突発する。 いずれの場合にも、普通いかな・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・その指令三百十一号には、突発事故が起きたらできるだけ復旧事務を拒否せよ、民同との摩擦を回避せよ、などという文句があったそうです。北海道に偽の指令が流れたことがあった。この指令もおそらくどこかの家宅捜索をすれば、「そこにもあった」ものとして発・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ 栄蔵は、自分と同年輩の男に対する様な気持で、何事も、突発的な病的になりやすい十七八の達に対するので、何かにつけて思慮が足りないとか、無駄な事をして居るとか思う様な事が多かった。「まあ飛んだ事呉(れた。 でも、まさか何ん・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・こんなアナーキーな突発的な虫を体に入れておくことは何とも承知出来ない。いろいろ条件がわるく重なったとき、又きっとやるのだから。近日又ゆっくり常態で書きますが、今日は文字通り同病の誼による御機嫌伺いを申します。[自注23]ベッドの・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・けれども、その中間の重心に、自意識という介在物があって、人間の外部と内部とを引裂いているかの如き働きをなしつつ、恰も人間の活動をしてそれが全く偶然的に、突発的に起って来るかの如き観を呈せしめている近代人というものは、まことに通俗小説内におけ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・この神経質で受動的に敏感な男が最後の破局として突発的殺傷をすることは前に述べたが、私としてはこの作者が所謂良心的という人間を描く時に、多くこういうタイプの弱い人間をその面でだけ取り上げて来ていることに或る注目を引かれる。この作者にとって良心・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・一八八一年三月一日、全く予告なく突発した事情の下に帝位に即かせられることになった酒飲みのアレキサンドル三世は、有名なポヴェドノスツェフと共に極端な反動的政治をはじめ、そのために従来ナロードニキの社会的支柱であったブルジョア自由主義者は甚しく・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・その目まぐろしさが戦争突発以後ますます物狂おしく高まって来る。あらゆる発明と発達とはその成果を戦場に並べ立て、あらゆる個々の進歩はその戦争への貢献によって一時に我々の注意を刺激する。戦前の十年もついに戦争中の一年に如かない。 このことは・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
出典:青空文庫