・・・されば小樽の人の歩くのは歩くのでない、突貫するのである。日本の歩兵は突貫で勝つ、しかし軍隊の突貫は最後の一機にだけやる。朝から晩まで突貫する小樽人ほど恐るべきものはない。 小樽の活動を数字的に説明して他と比較することはなかなか面倒である・・・ 石川啄木 「初めて見たる小樽」
・・・ 「焼火箸を脇の下へ突貫かれた気がしました。扇子をむしって棄ちょうとして、勿体ない、観音様に投げうちをするようなと、手が痺れて落したほどです。夜中に谷へ飛降りて、田沢の墓へ噛みつこうか、とガチガチと歯が震える。……路傍のつぶれ・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・ 門の屋根を突貫いた榎の大木が、大層名高いのでございますが、お医者はどういたしてかちっとも流行らないのでございましたッて。」 四「流行りません癖に因果と貴方ね、」と口もやや馴々しゅう、「お米の容色がまた評・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
身には疾あり、胸には愁あり、悪因縁は逐えども去らず、未来に楽しき到着点の認めらるるなく、目前に痛き刺激物あり、慾あれども銭なく、望みあれども縁遠し、よし突貫してこの逆境を出でむと決したり。五六枚の衣を売り、一行李の書を典し・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・「があ、非常召集、があ、非常召集」 大尉の部下はたちまち枝をけたてて飛びあがり大尉のまわりをかけめぐります。「突貫。」烏の大尉は先登になってまっしぐらに北へ進みました。 もう東の空はあたらしく研いだ鋼のような白光です。 ・・・ 宮沢賢治 「烏の北斗七星」
・・・「判りました。」「よろしい。」大将は云いながら三歩ばかり後ろに退いて、だしぬけに号令をかけました。「突貫」 楢夫は愕いてしまいました。こんな乱暴な演習は、今まで見たこともありません。それ所ではなく、小猿がみんな歯をむいて楢夫・・・ 宮沢賢治 「さるのこしかけ」
・・・自分たちの起した戦争の中へはいってわれらの敵国を打ち亡ぼせと云って鉄砲や剣を持って突貫しますか。それともああこんな筈じゃなかった神よと云ってみんな一緒にナイヤガラかどこかへ飛び込みますか。そんなことをしたって追い付きません。いや、それよりも・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・「八方塞がりになったら、突貫して行く積りで、なぜ遣らない。」 秀麿は又目の縁を赤くした。そして殆ど大人の前に出た子供のような口吻で、声低く云った。「所詮父と妥協して遣る望はあるまいかね。」「駄目、駄目」と綾小路は云った。 綾小路・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫