・・・彼はこの場合、懐手をして二人の折衝を傍観する居心地の悪い立場にあった。その代わり、彼は生まれてはじめて、父が商売上のかけひきをする場面にぶつかることができたのだ。父は長い間の官吏生活から実業界にはいって、主に銀行や会社の監査役をしていた。そ・・・ 有島武郎 「親子」
・・・ただし、いったんこの土地を共有した以上は、かかる差別は消滅して、ともに平等の立場に立つのだということを覚悟してもらわねばなりません。 また私に対して負債をしておられる向きもあって、その高は相当の額に達しています。これは適当の方法をもって・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・ ~~~~~~~~~~~~~~~~~ 以上は現在私が抱いている詩についての見解と要求とをおおまかにいったのであるが、同じ立場から私は近時の創作評論のほとんどすべてについていろいろいってみたいことがある。・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・城下金沢より約三里、第一の建場にて、両側の茶店軒を並べ、件のあんころ餅を鬻ぐ……伊勢に名高き、赤福餅、草津のおなじ姥ヶ餅、相似たる類のものなり。 松任にて、いずれも売競うなかに、何某というあんころ、隣国他郷にもその名聞ゆ。ひとりその店に・・・ 泉鏡花 「一景話題」
・・・ 旅は道連が、立場でも、また並木でも、言を掛合う中には、きっとこの事がなければ納まらなかったほどであったのです。 往来に馴れて、幾度も蔦屋の客となって、心得顔をしたものは、お米さんの事を渾名して、むつの花、むつの花、と言いました。―・・・ 泉鏡花 「雪霊記事」
・・・ この結論に達するまでの理路は極めて井然としていたが、ツマリ泥水稼業のものが素人よりは勝っているというが結論であるから、女の看方について根本の立場を異にする私には一々承服する事が出来なかった。が、議論はともあれ、初めは微酔気味であったの・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・そして、自分は、人のためとか、世の中のためとかいって、出歩いている矛盾した母親もありますが、子供の立場から見る時愛情の薄きに対して、不平を禁じ得ないでありましょう。 前にもいうが如く、子供は、母親を真とも善とも美とも見るのであります。即・・・ 小川未明 「お母さんは僕達の太陽」
・・・ 互に、罪もなく、怨みもなく、しかも殺し合って死なゝければならぬ子供等自身の立場に立ちて、人生問題として考えるばかりにとゞまらない。また、これを階級問題に移して、最も悲惨な犠牲者として、考えるばかりにとゞまらない。こうした悲情な物理力に対し・・・ 小川未明 「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」
・・・一刀三拝式の私小説家の立場から、岡本かの子のわずかに人間の可能性を描こうとする努力のうかがわれる小説をきらいだと断言する上林暁が、近代小説への道に逆行していることは事実で、偶然を書かず虚構を書かず、生活の総決算は書くが生活の可能性は書かず、・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・「いや、それは僕は、作家という立場からして、この会の成立ちとか成行きとかいうことには関係しないけれど、しかしたんに出版屋という立場から考えたなら、無名であって同時に貧乏な人間を歓迎しないということは、むしろ当然じゃないか……」「まあ・・・ 葛西善蔵 「遁走」
出典:青空文庫