・・・ 況や更にこみ入った問題は全然信念の上に立脚している。我々は理性に耳を借さない。いや、理性を超越した何物かのみに耳を借すのである。何物かに、――わたしは「何物か」と云う以前に、ふさわしい名前さえ発見出来ない。もし強いて名づけるとすれば、・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・聖書を隅から隅にまですがりついて凡ての誘惑に対する唯一の武器とも鞭撻とも頼んだその頃を思いやると立脚の危さに肉が戦きます。 私の聖書に対する感動はその後薄らいだでしょうか。そうだとも云えます。そうでないとも云えます。聖書の内容を生活とし・・・ 有島武郎 「『聖書』の権威」
・・・マルクスは唯物史観に立脚したと称せられているけれども、もし私の理解が誤っていなかったならば、その唯物史観の背後には、力強い精神的要求が潜んでいたように見える。彼はその宣言の中に人々間の精神交渉を根柢的に打ち崩したものは実にブルジョア文化を醸・・・ 有島武郎 「想片」
・・・俺たちは真実の世界に立脚して、根強い作品を創り出さなければならないんだ。だから……俺は残念ながら腹がからっぽで、頭まで少し変になったようだ。とも子 生蕃さんはふだんあんまり大食いをするから、こんな時に困るんだわ。……それにしてもどうして・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・ 空想はいかに自由であるといっても、現実に立脚するものです。北方の土地に生れた子供達には、南国の自然や、生活は、たとい書物で見たり、話できいたりしても、真に分るものではないのです。そして、それを幾何でも分るようにするには、芸術の力を・・・ 小川未明 「新童話論」
・・・ 芸術は、ほんとうに現実に立脚するものです。童話は、芸術中の芸術であります。虚無の自然と生死する人生とを関連する不思議な鍵です。芸術の中でも、童話は小説などと異って、直ちに、現実の生命に飛び込む魔術を有しています。 童話は、全く、純・・・ 小川未明 「『小さな草と太陽』序」
・・・本当の意味に於ける人間生活の歴史は、平和にしろ、革命にしろ、みな現実主義に立脚している。我々は未だ曾て現実に立脚しない仕事の成功した例を聞かない。例えば如何なる運動でも如何なる主義でも。 多くの人心を魅してその中に惹き入れるところのもの・・・ 小川未明 「囚われたる現文壇」
・・・ 流石に、ラッセルは、我が国に来て講演した際に、社会進化の考察を二つの立脚点からすることを忘れなかった。経済制度の改革に、これに伴うに精神進化をもってしたのです。真理に対する憧憬は其の一つです。愛を感じ正義に味方することが、またその一つ・・・ 小川未明 「民衆芸術の精神」
・・・ すべての芸術は、広義の意味のヒュマニティに立脚している。知的分子もあるに相違ないが、情緒の加わらぬ芸術はない。此の意味に於て芸術は、常に永久性を持っているものである。芸術の与うる感じは愉悦の感じでなければならぬ。男性的のものゝ中にも女・・・ 小川未明 「若き姿の文芸」
・・・この堯典の記事は天文の實地觀測に立脚せるものには非ずして、占星思想より編み上げられ、十二宮二十八宿の智識と、陰陽思想とがその根底となりしものなるを知るべき也。 又禹貢の九州を見るに之にも一の系統の截然として存するを見る。東を青州といへる・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
出典:青空文庫