・・・隣の法律家が余を視る立脚地は、余が隣りの法律家を視る立脚地とは自から違う。大袈裟な言葉で云うと彼此の人生観が、ある点において一様でない。と云うに過ぎん。 人事に関する文章はこの視察の表現である。したがって人事に関する文章の差違はこの視察・・・ 夏目漱石 「写生文」
・・・その代り何処が国家のためだか、明かに諸君の立脚地をわれらに誨えられる義務が出て来るだろうと考える。 政府が国家的事業の一端として、保護奨励を文芸の上に与えんとするのは、文明の当局者として固より当然の考えである。けれども一文芸院を設けて優・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・自己が世界を表現するとともに、世界の自己表現の一立脚点である。かかる矛盾的自己同一の形式によって、我々の自己の自覚的存在が考えられるのである。世界の内にあるとともに、いつも世界を越えている。かかる内在即超越、超越即内在の形式によって、一度的・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・ 芭蕉も初めは菖蒲生り軒の鰯の髑髏のごとき理想的の句なきにあらざりしも、一たび古池の句に自家の立脚地を定めし後は、徹頭徹尾記実の一法に依りて俳句を作れり。しかもその記実たる自己が見聞せるすべての事物より句を探り出だすにあらず、記・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・面にだけ立脚したプレハーノフの理論の時代から辛苦の結果、数歩をすすめて来ている。物は人を動かすが、人が又物をいかに強力にうごかすかという人類の能動力その相互関係において有機的に芸術を見、且つ生もうとする段階に到達しているのである。徳永氏が傑・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・を失墜させ、日本はじめ世界の大資本新聞をとまどいさせて、こんどの選挙にトルーマンが当選したのはアメリカの正直な男女の市民が、身につけているアメリカの民主主義社会生活の訓練と、働く市民としての生活事実に立脚した具体的な判断から、第八十議会で共・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・仕事の上で女として自分を守ったり主張したりするというのは、こういう、どうせに立脚した態度とは反対のものでなければならないと思う。女自身が女として仕事、人生に責任をしっかりと執って、そのことで周囲がその女のひとに対する責任を、おのずから知られ・・・ 宮本百合子 「女の歴史」
・・・だからその事実に立脚して外部的判断と闘うという風に考えるのは普通人の頭である。木々高太郎氏は、その「理性の方を信頼する」と云う内容を逆に見ている。殆ど正気と思われない程受動的な、被暗示的な精神状態において表現し、卑俗に云えば、「余りお前が盗・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・画壇に於てばかりでなく、各方面に、そういう、或る見識に立脚した批判と選択を持った人であった。 考えて見るのに、私は、瀧田氏の極小部分しか知らない。而も、その小部分によほど、弱音器がかけられていると思う。大人は子供に水を割った葡萄酒を飲ま・・・ 宮本百合子 「狭い一側面」
・・・ドイツにはこう云う立脚地を有している人の数がなかなか多い。ドイツの強みが神学に基づいていると云うのは、ここにある。秀麿はこう云う意味で、ハルナックの人物を称讃している。子爵にも手紙の趣意はおおよそ呑み込めた。 西洋事情や輿地誌略の盛んに・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫