・・・御察し申しまするに、あなたはわたくしのいたした事を無責任極まる所為だと思召して、ひどくご立腹になっていらっしゃいますのでしょう。自分で顧みて見ましても、わたくしのいたした事は余り気の利いた所為だとは申されません。全く子供らしい振舞だったと申・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・もし、今の闇で命をつないでいるような暮しを、日本じゅうの少女たちが、悲しがり、立腹し、ちゃんとした解決を求めて物を云いはじめたら、其は、すべての人々を一層本気に考えさせ、工夫させ、よいと思う方法を試みる勇気を起させることだろうと思います。・・・ 宮本百合子 「美しく豊な生活へ」
・・・けれども、若者の行為が無責任であることは十分明瞭に見ながらも、それによって非常に立腹する自分の心持のよって来る立場というものの作用をわきまえて、全体の人間関係のいきさつを、今日の世相の一つの姿として理解したら、その娘さんは自分を不快におとし・・・ 宮本百合子 「女の自分」
・・・その前年、ツルゲーネフに少年時代から沁々農奴生活の悲惨を感じさせた専横な女地主である母親が、外国で日を暮しているツルゲーネフに立腹して送金を拒絶した時、彼を助けて金を出してやったのは、ヴィアルドオ夫人である。 ヴィアルドオ夫人の美と才能・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・ 今までとは打って変って高圧的な口調で、番頭は先ず隠居が大変立腹していること。こんなに手を換え、品をかえて何か遣ろうとするのにきかないのは、何か思惑があるのじゃあないか、一旦自分で突落した若旦那をまた自分で助けて来でもして、こちらで上げ・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・ 悪態、罵声、悪意が渦巻き、子供までその憎悪の中に生きた分け前を受ける苦しい毎日なのであるが、その裡で更にゴーリキイを立腹させたのは、土曜日毎に行われる祖父の子供等に対する仕置であった。鋭い緑色の目をした祖父は一つの行事として男の子達を・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ サロンに入選しても、マリアはますます自分の画の不満を自覚してきびしく自分を鞭撻しているのに、家族の者がマリアの体を気づかう姑息な女々しい心遣いはマリアを立腹させるばかりである。マリアの耳では目醒時計の刻む音がきこえなくなった。過去四年・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・そして、彼女はそういう自分の肉体の行儀よさに立腹したりした。現実の感覚を知らぬジュネヴィエヴは、非常に率直に、具体的な言葉で問題を出すが、情熱がさめているアンネットの方は、すべてをもっと抽象的に話す。これも、作者の洞察の二様の鋭さであって深・・・ 宮本百合子 「未開の花」
・・・何かが、まるで農民が道徳をさえわきまえぬ者で娘を売るように口やかましくほんの一部の身売り防止事業などに世人の注意をあつめ、窮乏の真の原因とその徹底した打開策とを大衆の目から逸らさせようとしていることに立腹を示したものであった。 鈴木さん・・・ 宮本百合子 「村からの娘」
・・・あらゆる悪態、罵声、悪意が渦巻くような苦しい毎日なのであるが、その裡でゴーリキイを更に立腹させたのは、土曜日毎に行われる祖父の子供らに対する仕置であった。祖父は一つの行事として男の子供らを裸にし、台所のベンチへうつ伏せに臥かせ、樺の鞭でその・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
出典:青空文庫