・・・なぜかといえば、たとえば安倍源基という人は、日本の治安維持法による特高警察というものがつくられ、言論や出版の自由をすべて人民から奪って、十何年かの間戦争を遂行して参りましたその治安維持法改悪のたびに立身してきた人間です。安倍源基という人はは・・・ 宮本百合子 「平和運動と文学者」
・・・彼女には、レオニード・グレゴリウィッチがこれ以上立身をして、自分達の生活に変りが起ろうとも思えなかった。一生のうちに、また故郷の草原を見、丸木小屋に坐って温まって来る壁の匂いをかぐ懐かしい冬の夜にめぐり合うことも無いであろう。それでも、生活・・・ 宮本百合子 「街」
・・・そして戦功によって立身をした。「聖戦」といわれた戦争の本質は終って見れば虚偽の侵略戦争であった。銃後の生活は護られていて、家庭から離れる不安と苦痛とを耐えていた人々は、帰って来て、焼けた家の屋根を葺いたのは、憐れな妻子の手であって、国家の手・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・お前は忠実この上もない人であるから、これから主取をしたら、どんな立身も出来よう。どうぞここで別れてくれと云うのであった。 九郎右衛門は兼て宇平に相談して置いて、文吉を呼んでこの申渡をした。宇平は側で腕組をして聞いていたが、涙は頬を伝って・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫